当選は五分五分の可能性でしたから起きて何ら不思議ではないことなのですが、実際に起きてみるとなかなかショックな出来事でした。
この20年ほどの間でアメリカ覇権時代は終焉に向かって進んでいるとの観を強くしていたのですが、いよいよ終わりの始まりが来たのだと改めて思い知ったからです。
トランプ氏が大統領となることで、1期目の実績や選挙運動中に掲げた公約から2期目において実施されるであろう政策について様々に議論がなされています。
日本としては特に経済政策・安全保障政策が気になるところですが、トランプ氏はその時々の気分で政策の方向が決まるので、具体的な内容はその時になってみないと分からないのが実情です。
しかし、現時点では閣僚候補たちも指名されていることから、見えてくるものもあります。
① 2期目は1期目の延長線にある政権ではない
これは過去に筆者が記したように、1期目の政権幹部は実績や知見をもとに登用されたことで、トランプ氏が過激な政策を主張しても良識ある幹部が歯止め役になっていましたが、2期目に指名された幹部候補たちはトランプ氏への忠誠心が強いイエスマンばかりですから、トランプ氏が主張する政策の実行に向けて全力を尽くすであろう体制が敷かれようとしています。
加えて、幹部候補者たちの多くは担当分野に関してこれまでの政府運営に関して批判的な姿勢を持っており、彼らの意向と相俟ってこれまでとはまったく異なる政策が実施される可能性が高まっています。
1期目の実績を見てトランプ氏は吠えるばかりで実際にはたいしたことはないと楽観的な見方も出ていますが、筆者からすれば現実的な見方とは思えません。
② ルールを遵守することには意を介さない政権になる
トランプ氏は数多くの訴訟や取り調べの対象となっており、その一部では有罪評決を受けています。
法令等のルールを遵守する必要のない特別な人間であると思っているのかもしれません。
少なくともトランプ氏は大統領は法令に縛られないと主張しています。
そしてそのような人間が幹部候補に選んだのもやはり同じくルールを遵守しない方々で、法令等違反で逮捕・取り調べを受けている者が数多くいます。
上院での承認は難航必至の顔ぶれです。
このような人たちで構成される政権は果たして国内法令や国際的なルールや合意を遵守することに重きを置くのでしょうか。
1期目でもTPPやNAFTAから一方的に脱退して米国は顰蹙を買いましたが、2期目はさらに多くの国際的な枠組みから脱退し、好き勝手に行動していくのでしょう。
これが米国のみの問題ならばいいのですが、国際的な枠組みは米国という柱を失ってしまうと代わりの柱となりうる国が存在しないため有名無実と化してしまいます。
それらの枠組みが機能不全に陥る横で、中国やロシアが自分たちにとって都合のよい別の枠組みを推進していくことになるでしょう。
③ 人権を軽視する政権になる
1期目でもトランプ氏は差別を助長するような言動を繰り返してきましたが、2期目は幹部候補たちも同様の言動を示すと考えられます。
例えば、政府効率化省のトップとして指名されたイーロン・マスク氏は、早速無駄だと考える政府官僚ポストを複数掲げただけでなく、そのポストに就いている方の個人情報をXに晒しました。
そのポストを廃止すべきと主張することには何ら問題ありませんが、個人攻撃を正当化する理由がどこにあるのでしょうか。
そのポストの設置や廃止を決めるのは、そのポストに就いている方ではないのですから。
また、トランプ氏は選勝戦中から、民主党をはじめとする反トランプ派には収監等により報復すると宣言しています。
同じくマスク氏もトランプ氏を批判している退役軍人を非国民呼ばわりし、報復宣言しています。
これらは単なる脅しかもしれませんが、脅しであっても酷すぎる話であり、人権を軽視するような人間でなければ出てこない発言です。
もし実行に移せば反体制派を弾圧する独裁政権と何ら変わりありません。
④ 経済オンチの政権になる
トランプ氏はビジネスマンだから経済のことはよく分かっているとする見方があります。
しかし、トランプ氏は主に不動産で財を成したわけですからディールが得意というならば理解できますが、何らかの実業の経営者だったわけではないので経済に詳しいという見方には疑問を感じます。
まして、グローバル企業の経営を担ったことはないので、グローバル経済のことに関しては無知と言ってもいいのではないでしょうか。
自身が目玉政策として掲げる関税の仕組みをまったく理解していないのがその証左です。
財務長官としてファンドマネージャーのベセント氏を指名しているのでトランプ氏が不足するところを補ってくれると期待したいところですが、関税支持派である時点でグローバル経済に関する知見はトランプ氏と同程度と見るべきで、期待薄です。
⑤ 外交方針はトランプ氏の気分で決まる
1期目でも見られたように、トランプ氏は北朝鮮をはじめとする旧来の対立勢力とは距離を縮める一方で、旧来の友好国とはケンカばかりの関係が2期目でも見られることでしょう。
G7においてトランプ氏とメルケル首相(当時)や他の首脳たちが対立している構図の写真に代表されるように、同盟国・友好国というステータスは何ら意味を持たない4年間になるでしょう。
2期目の国務長官候補のルビオ氏はトランプ信者ということで選ばれた人間ですから、トランプ氏発の言い掛かりを世界中に撒き散らして、各国との関係を悪化させていくと考えられます。
日本は、1期目当時の安倍総理がゴルフ外交でトランプ氏と仲良くなることに成功したので被害は少なかったですが、石破総理が同じように仲良くなることができなければ、G7の中でもっとも厳しい対応を迫られることになりそうです。
深読みしすぎとの批判を受けるかもしれませんが、故あっての分析です。
日本ではあまり取り沙汰されることがありませんが、トランプ氏が選挙戦中に述べた公約の多くは出典があります。
『プロジェクト2025』と呼ばれる文書があり、これは1期目のトランプ政権幹部を中心に次期共和党政権が取るべき政策提言書としてまとめられたものです。
トランプ氏の名前は出てきませんが、次期共和党政権は2期目のトランプ政権を指していることは明らかです。
トランプ氏は文書への関与は否定していますが、執筆者の多くが政権幹部候補となっている時点でこの文書が実質的にトランプ政権の政策ガイドラインであることを意味しています。
Trump disavowed Project 2025. Now he’s hiring its contributors for his administration
900ページ以上に及ぶ文書なので読むだけでも一苦労ですが、前段箇所において国民に対する約束として掲げている内容だけでもこの文書が意図するところが伝わってきます。
約束① 家族を取り戻す
時計の針を戻すかのように家族やコミュニティの復権を訴えるのは保守派の常套文句です。
しかし、この文書で家族を取り戻すために必要としていることは以下のようなことも含みます。
表現の自由の制限: 子供を有害な情報から守るためとしていますが、有害情報にはSOGIやDEIも含み、Woke思想を全面的に否定しており、カトリック教会の伝統的価値観のみを認めています。
SNSの否定: 子供に対する有害度は麻薬と同等と位置付けており、サービス提供企業が批判されています。
約束② 政府の縮小
これは政府支出の無駄を排除するというもので、マスク氏の政府効率化省の根拠となっており、最近成立したつなぎ予算についてトランプ氏が反対した根拠にもなっています。
興味深いのは政府支出が無駄に膨らんでいるのはWoke思想のせいとされていることです。
仮にその見解が正しいとしても、差別意識が根強いから対策しようとしている結果と考えられますから、それを否定するということは差別を推奨していることになるのではないでしょうか。
約束③ 主権や国境を守る
一見すると安全保障政策に係る約束に見えますが、国家主権を脅かすものとして国連を始めとする国際組織や枠組みが挙げられています。
国際的な枠組みに従うということは主権の一部を実質的に放棄することが求められるからです。
トランプ氏が各種国際組織から脱退したがることの根拠となっています。
また、Woke思想に侵された企業経営者も主権を脅かすものとして挙げられています。
米国人労働者よりも外国人株主を大切にするからというのがその理由です。
ちなみに、約束内容とは直接関係ないですが、この中で欧州各国もWoke思想に侵されているとして、否定的な対象として描かれています。
約束④ 自由の追求
この箇所は米国が自由を勝ち取ってきた歴史や社会主義・共産主義国家との対比で自由主義国家が優れていることが長々と書かれた挙句に表現の自由を守れとあるだけなので、何を約束しているのか定かではありません。
約束①で表現の自由を制限しているので、この矛盾をどう整理するのかもよく分かりません。
おそらくはWoke思想が社会主義と同一視されているのだと思いますが、それにより執筆者たちの保守的な価値観が侵されているという危機感が背景にあるのだと思います。
この文書の通りにトランプ氏が大統領として政策を進めていくとなれば、米国のアイデンティティを大きく変容させることになります。
そして世界の極である米国が変容するならば、世界も大きく影響を受けることになります。
米国内だけでなく世界秩序が、これまでとはまったく違うものにシフトしていくのではないかと考えられます。
LAタイムズは社説にて、これくらやってくるであろう時代に強い危機感を表しています。「我々の生存を懸けた戦い」がやってくると。
With new Trump presidency, California is in for the fight of our lives


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