トランプ関税の目的について

2025/04/17

米国

 トランプ大統領の言う「相互関税」の詳細公表を受けて、世界の株式市場は時価総額にして約10兆ドル(約1400兆円)失いました。

 これは世界GDPのおよそ1割に相当する金額です。

10 days and a $10 trillion market swing: How Trump’s tariffs changed the global economy, and what comes next

 今回の関税は、選挙戦中に掲げた公約を実行しているにすぎませんが、市場や各国政府はあまり本気にしていなかったのか、詳細が発表されてから大混乱に陥っています。

 トランプ大統領は、一人の人間が世界経済に負わせた損失の最大記録保持者として歴史に名を残すことになるのではないでしょうか。


 日本に対する関税率は24%と提示されており、市場や日本政府は意外感をもって受け止めています。

 しかし、日本よりもよほど関係の深い隣国カナダやメキシコに対して25%の関税率を突きつけているわけですから、同程度の関税率ならばあまり驚きはないはずです。

 貿易黒字、且つ米国との結びつきが強い英国でさえ10%の関税率ですから、むしろそちらのほうに驚きを感じます。

Which countries have been hit by latest US tariffs?


 発表直後に90日延期としたり、中国とは報復の応酬を繰り返したり、スマホ等半導体関連を関税対象から除外したり(政府は除外ではないと否定)と、腰の据わらない政策運営のため先行きの見通しが非常に難しくなっています。

 また、トランプ大統領は関税の仕組みを未だに理解しておらず、そのため関税政策自体に合理性を見出すことはできません。(合理的な判断が為されているならば今回のような関税政策を検討することはありえません。)

 それでも今後の見通しを考察するうえでの一助とすべく、トランプ関税の目的について整理したいと思います。


 これまでのトランプ大統領発言に基づき、BBCは関税に5つの狙いがあるとしています。

Trump had five tariff goals - has he achieved any of them?

・貿易不均衡の解消

・米製造業の復権

・中国との対決

・政府歳入の増加

・物価の引き下げ


 ちなみに、関税の仕組みを簡単に述べると以下の通りです。

 日本が自動車を米国に輸出し、米国の関税率が25%である場合を例にとると、日本の輸出者が米国の輸入者に自動車本体を輸出し、これを受け取る輸入者が輸出者に商品代金を支払うとともに代金の25%を関税として米政府に納付します。

 ポイントは誰が関税を負担するかということであり、トランプ大統領は未だに輸入者ではなく輸出者が関税を支払うと誤解しており、これが政策判断に大きく影響しています。

 マスコミからも誤解を直接指摘されたりもしているのですが、マスコミを信用しないトランプ大統領のことですから聞く耳を持ちません。


①貿易不均衡の解消

 米国の各国に対する貿易赤字についてトランプ大統領は日頃から強い不満を持っており、これを解消するのが狙いです。

 貿易赤字の状態については「不公平」であり、各国から「搾取された」などの言葉を使って糾弾しています。

 貿易赤字は、例えば日本の自動車を例に考えると、日米双方において米国車よりも日本車が支持された結果にすぎません。

 米国人が購入した日本車の台数分だけ日本人が米国車を購入する義務も理由もありません。

 また、アップルのiPhoneの例で考えると、品質やコストのメリットから米国外産の部品を多用し、米国外にて組み立てることが最適とアップルが判断した結果です。

 つまり、貿易赤字を生んでいるのは米消費者や米企業の判断の結果ですから、糾弾すべき相手がいるとするならば、それは自国民です。

 もっとも貿易収支のことで自国民を糾弾するなどナンセンスですが。


 そもそも、貿易収支に着目すること自体ナンセンスです。

 デジタルサービスの拡大もあって米国のサービス収支は黒字です(もっとも水準は貿易収支の赤字には及びません)。

 資本収支は貿易収支と同程度の大幅黒字であり、各国が貿易による稼ぎを投資として米国に還流させていることが窺えます。

 おカネがうまいことグルグル回っているのに、その一部のみを切り取るので「不公平」という感想が生まれます。

 貿易を均衡させるならば投資も均衡させなければ公平になりませんが、米国メーカーが日本に工場を積極的に設置するといったことは到底考えられません。


 貿易赤字を問題視する人たちが存在すること自体は現実として受け入れるしかありませんが、驚くのは貿易黒字の国々も関税の対象となっていることです。

 貿易赤字を是正したいならば、貿易黒字の国も関税の対象としたのでは筋が通りません。

 貿易を第三国経由とすることで関税を回避しようとする動きを牽制するためとも考えられますが、そのために無関係な貿易取引が巻き込まれるのでは影響が甚大すぎます。


 また、関税ではそもそも貿易赤字を解消できないという問題もあります。

 関税の影響で対米輸出の減少は不可避ですが、輸入も減少すると考えられるため貿易赤字削減効果は限定的です。

 米中で起きているように、途方もない関税率で2国間貿易が成立しないところまで持っていくならば貿易収支はゼロとなり赤字は解消しますが。


 貿易赤字是正が目的ならば中国並みの関税率としないかぎり対処法とはなりえないため、一向に減らない貿易赤字を睨みながら米政府が関税をずっと続ける可能性が高いと考えます。

 米国民が物価高騰に怒って暴れだすようになれば再考するかもしれませんが。


 また、貿易赤字是正が目的ならば、関税協議において対米投資を増やすような提案は、投資提案自体はトランプ大統領に喜んでもらえるでしょうが、貿易赤字是正に貢献しないので引き続き是正を迫られることになると考えられます。

 そういう意味では、日米首脳会談にて石破総理は対米投資が世界最大であることを強調していましたが、貿易赤字とは関係ない話なので関税政策において一顧だにされなかったのも当然のことです。


②米製造業の復権

 関税により輸入品の価格が高騰することで国産品が価格で勝負できるようになる、あるいは競合する輸入品が国内に入ってこなくなることで米製造業の復活を支えようという狙いです。

 トランプ大統領は米製造業が強かった時代をイメージしていますが、社会構造が大きく変わっているので関税だけで製造業復古を果たすのは無理があると思います。

 その点は置くとしても、メーカーは生産体制を整えるためのリードタイムが必要となるので、米消費者は代替となる国産品が手に入らない間は高価となった輸入品に頼らざるを得ない局面がまずやってきます。

 そのような状況を米消費者たちは果たして許すのでしょうか。


 トランプ大統領としては関税というスイッチが入った途端に、海外の生産拠点が米国内に移され、それに伴い製造業の雇用が急回復するという絵を描いているようにしか見えません。

 実業家として経験があるのは不動産業のみで製造業に携わったことがないので、生産拠点を移すことが如何に大変なことであるか全く理解していないようです。

 また、BBC記事にもあるようにトランプ関税の着地点が見えない中、米企業としてどのような戦略が最適であるか判断するのは困難であるため、積極的にリスクテイクすることは拙速と考える経営者が多いのではないでしょうか。


 米製造業は関税によって競争圧力が緩和するというメリットを受ける一方で、原材料や部品等を海外産で賄うことが難しくなるというデメリットもあります。

 すべてを米国産で対応できる分野であっても米国の高い人件費の影響を受けるので、米消費者にとっては国産であろうと外国産であろうと値段の高いもの同士の選択を突きつけられることになりそうです。

 製造を米国に移した場合のiPhoneの価格について試算しているところがありましたが、その試算によると1台3500ドルと現行価格の3倍程度になるそうです。

 アップルから委託される米国内の製造工場は喜ぶでしょうが、この価格で買ってくれる米消費者はどれだけいるのでしょうか。


 米製造業が喜ぶ限りは関税が続くでしょうが、そのために消費者が犠牲になることを米国民は許すのでしょうか。


 米製造業の復権が関税の目的ならば、関税協議において生産拠点を米国に移すという提案を行うのはちょっと微妙です。

 米国内の雇用には貢献しうるものの、海外企業が米企業を圧迫するという構図に変化がないからです。

 日本製鉄によるUSスティール買収にトランプ大統領が反対しているのも同じ文脈で考えることが出来ます。

 買収によりUSスティール従業員の雇用は維持され、貿易赤字削減にも効果があるものの、日本企業が米企業の同業者を圧迫するという構図が気に入らないのです。(トランプ大統領は米国の企業や国民は世界の中でも圧倒的に優れていると考えているフシがあるので、その米国を象徴する老舗企業が日本などに買収されるのはプライドが許さないという面ももちろんあるでしょう。)

 日本製鉄による買収が認められなければ、USスティール単体で経営を維持するか、同業のクリーブランド・クリフスによる買収という選択肢になりますが、どちらの場合でも雇用が維持されない可能性が高いです。

 ホンネとしてはトランプ大統領は雇用に関してはさほど関心が無いように思われるため、生産拠点の米国移転は歓迎と言っているものの、いずれ迂回輸出の一種と受け止めるようになるのではないでしょうか。


③中国との対決

 これは、①の貿易不均衡について中国のみにフォーカスした恰好ですが、覇権争いの一面もあります。

 第1次トランプ政権でも中国を狙い撃ちにした関税政策を実行してきましたが、今回の政策との違いは2点あります。

 第1次政権が課した関税は品目限定だったのに対し、今回は包括的な関税(ただし、一部品目は別の関税が適用)となっています。

 また、第1次政権は中国のみに関税を課したので、ベトナムやメキシコなどを通じて輸出を迂回させることで関税を回避することができましたが、今回はほとんどの国が関税の対象となったことで完全に回避することが難しくなっています。

 中国はトランプ大統領再台頭に備えて貿易の分散を図るなど米国の関税政策に耐えられるような経済構築を進めてきたこともあって、トランプ関税の公表に対して一早く報復措置に着手しました。

 これに対して米政府は更なる追加関税を課しましたが、中国政府は怯むことなく対抗する姿勢を見せています。


 ここでトランプ大統領に大きな誤算が生じたのではないかと筆者は考えています。

 第1次政権時の失敗を糧に、迂回輸出という抜け道を封じ、あらゆる中国輸出品を対象に関税を課したので、中国政府は足元に平伏すというイメージを抱いてトランプ大統領は関税政策を進めてきたはずです。

 しかし、予想に反して中国政府は弱気になるどころか対抗姿勢を貫いています。

 つまり関税は中国に対する切り札になっていないということで、他のカードを準備していないトランプ大統領は焦りを感じているのではないでしょうか。

 Foreign Affairsでは米中貿易戦争において優位を占めるのは米国ではなく中国であると解説しています。

Trade Wars Are Easy to Lose


 トランプ大統領は自身も認めるディール大好き人間です。

 不動産実業家として数多くのディールに関わってきたものと思いますが、その成功体験が強いせいか、大統領になってもディールという形で国内外の勢力と相対することがほとんどです。

 トランプ大統領が好むディールの手法は1つしかありません。

 不動産所有者の弱みに付け入り、その不動産を安く買い叩くという実業家時代の手法をそのまま政治に転用しています。

 交渉相手の弱みを見つけ、それをテコに自分が望む形で交渉を有利に進めるというものです。

 問題はトランプ大統領が「弱み」と考えることが何であるかです。


 同盟国・友好国は米国を当然に頼りにしているわけですが、トランプ大統領はそれを弱みと見ています。

 だから、それらの国々が寄せる信頼を平気で踏みにじることが出来るわけです。

 米国が大きな貿易赤字を抱える国々についても、貿易による稼ぎを米国に依存していることが弱みと見て、貿易を続けたければカネ(関税)を払うか、代わりの金目のもの(貿易条件の見直し等)を寄越せというのがトランプ大統領の考え方です。

 金品目当てで人を脅す行為は一般的に恐喝と言いますが、これがトランプ大統領の好むディールの本質です。


 関税を負担するのは米企業や米消費者であって輸出国ではないのですが、トランプ大統領はそのことを理解していないので上記構図が成立すると考えています。

 輸出国の多くが協議を申し込んでいるわけですから、トランプ大統領からすれば自分の見立てが間違っていないと自信を深めているでしょう。

 しかし、自信を深めるほどに、なぜ中国が屈しないのか理解不能に陥っているはずです。

 中国に対して早く協議を申し入れいるよう呼び掛けていることがその表われです。


 中国に対する関税は現在145%ということになっていますので、このままでは中国からの輸出は成立せず、したがって関税による収入も得られない、貿易条件等の改善も得られないということで米国は失うばかりの状態になっていることに気が付いているはずです。

Singled out by Trump, China has the ‘leverage to retaliate’ and nothing to lose: analysts


 更に追加関税を課しても効果はなく、関税以外のカードも持っていないので、中国に対する次のアクションにトランプ大統領は頭を悩ましていると思われます。

 同盟国を巻き込むことで中国に圧力を掛けることも検討しているようですが、対米従属の日本はともかく多くの国は非の無い中国よりも自国に迷惑を掛けている米国を選ぶ理屈が成り立たないので協力を取り付けることは決して簡単ではないでしょう。

 協力を取り付けることが出来たとしても、中国が今更強気姿勢を崩すとも思えません。

Why Trump is scrambling for allies in his trade war with China


 トランプ大統領に打開策が無ければ、このまま関税で対立した状態を続けることで米中貿易が消滅していくのかもしれません。

 関税率の低い第三国を迂回させることで実質的には貿易は続くのでしょうが、その時点で関税政策の無意味さをトランプ大統領が悟ることができれば撤回になるかもしれませんが、失敗を認めることを嫌う人なので、無駄に関税政策を続けるように思われます。


④政府歳入の増加

 関税によって政府歳入が増加するのは確実です。

 しかし、これを目的としているならばなかなか非論理的です。

 関税を支払うのは米企業や米消費者なので、企業・家計部門から政府部門に資金が流れるだけで米国全体としては収入が増えるわけではありません。

 トランプ大統領はこの点を理解していないことは繰り返し述べてきました。

 トランプ大統領は大型減税の恒久化を公約として掲げており、その財源にトランプ大統領関税を充てるとしています。

 しかし、その計算は関税を課しても貿易量は変化しないという前提で成立しているものです。

 関税による貿易量の変化を計算に織り込むべきなのですが、どの程度の変化を織り込むべきか根拠となるデータが存在しないため、貿易量不変という前提条件を置くのは仕方のないことですが、この点を考慮していない政策運営は問題が生じます。

 現実には関税負担から貿易量が落ち込み、②の目論み通り国産品が選択肢となるようであれば貿易量はさらに落ち込むことになります。

 貿易量が落ち込めば関税による収入も当然に落ち込むわけですから、大型減税分を関税収入で賄うことができなくなります。

 この時点で減税の財源にするという目論見が大きく崩れてしまうわけです。

 不足する関税収入分は米国債発行で補うしかないわけですが、対米貿易が厳しい状況で中国や日本は今までのように米国債を買い続けるのでしょうか。

 米国債保有量第1位の中国は米国債の保有を以前から減らしてきています。

 おそらく政治的要因から買い控えているものと思われますが、米中貿易戦争が進めば買い控えどころか積極的に売却に動く可能性があります。(損失が大きくなるので大量売却は起きないとする専門家が多いですが、中国のメンツの問題なので経済合理性で分析することは間違いです。)

 日本は米国債売却は考えていないと公言していますが、米国に対して使えるカードであることは間違いありません。


⑤物価の引き下げ

 この目的は④以上に非論理的です。

 関税によって米国内産業が強化されることで競争を生み、物価が下がるというのがトランプ大統領の言い分です。

 輸入品を締め出すことで米国内産業が強化されるという言い分は否定できませんが、輸入品との競争に負けていた産業が強化されても関税導入前よりも価格を押し下げるような競争が生まれるはずがありません。

 米企業のシェアが増えることで生産コストが下がるという効果はもちろん期待できるでしょう。

 しかし、それによって関税前の輸入品価格よりも安価に提供できるようになるというならば、関税導入がなくとも価格を引き下げてシェアを取りに行くという戦略が成立したはずです。

 その戦略が実行されていないのは大量生産しても輸入品よりも安価に商品を提供する方策が存在しないからです。

 つまり関税の効果で物価が上がることはあっても下がることは決してありません。

 関税によってリセッションに突入し、その結果物価が下がることまで織り込んだうえでトランプ大統領が発言しているならば別ですが。


 トランプ大統領は選挙戦中にインフレは自分がやればすぐに退治できると豪語していました。

 しかし、具体的な方策は未だ提示していません。

 もし、トランプ関税をインフレ対策と位置付けているならば、何も方策はないということであり、インフレが米国民の最大関心事項となっている現在、トランプ大統領の求心力は今後急速に低下することになりそうです。



関税の先行きを考察

 トランプ大統領は正しい情報を集めたうえで政策決定するということをせず、自分の頭の中で描いた世界観に基づいて政策決定しているように見えます。

 おそらく今回の関税政策でも同様で、そのため目的の段階から合理性に欠けます。

 そのように形作られた政策ですから、結果についても合理的に見通せているはずがありません。


 事態の推移が予想の範囲内ならば関税政策は継続されるでしょう。

 貿易赤字が十分に縮小していない、各国の対応が不十分であるといった理由で追加関税が実施される可能性も否定できません。

 逆に、十分な対案を提示すれば関税撤回が可能と考える国もありそうですが、上記目的を達成できるのは市場開放等による米製品の購入ぐらいしかないので、多くの国の協議は不調に終わるでしょう。



米消費者が物価高騰にどう反応するのか

 米消費者は関税による物価高騰に我慢できずに騒ぎ出すので、関税は長く続かないという見方(どんなに長くても中間選挙までという声も強いようですが、再選のないトランプ大統領がなぜ中間選挙の結果を気にするのでしょうか)もありますが、米国人はトランプ大統領に抗議することに怖さを感じ始めています。

 すでに、トランプ大統領に抗議する者は不法移民扱いで逮捕・強制送還されたり、トランプ大統領の意向に従わない企業・大学は補助金や取引を打ち切られるなど政府からイジメを受けています。

As he lionizes a strongman, Trump flexes power over the law, top colleges and the media


 プーチンと同じように、声を上げる反対派をいずれ厳しく取り締まることになるのではないかという空気が流れ始めています。

 そうなると生活がどんなに苦しくなろうともトランプ関税に反対する機運が盛り上がらない可能性もあります。



上記以外の目的

 トランプ大統領本人が明確に自覚できていない、あるいは支持者に対して表立って説明したくない目的もあるように思われます。


・経済的鎖国

 トランプ大統領のこれまでの発言からすると、セオドア・ルーズベルト大統領時代のように米国が世界情勢に関与しない時代に憧れがあるようです。

 世界の仕組みが当時とは大きく異なるので実現はかなり難しいと思いますが、トランプ大統領は世界から孤立することを望んでいるように見えます。

 しかしそれは覇権国家のステータスを捨てることも意味します。

 自分が何を望んでいるのかよく分かっていないという気もしますが、同盟国・友好国を遠ざけることを就任以来間断なく続けているわけですから、相当強い思いがあるように思われます。


 覇権を狙う中国にとっては願ったり叶ったりの状況ですから、関税発表以降、高関税を課せられた国々との連携を強めるべく動いています。

 一義的には対米貿易分の受け入れ先を確保するという目的ですが、中長期的には米国を除く経済圏を築く狙いがあると見て然るべきでしょう。


 トランプ大統領は各国と適度に距離を置きたいだけかもしれませんが、反発する諸国の動きもあってグローバル経済から米国が締め出される可能性も否定できません。

How Trump’s Coercion Could Backfire in Asia


・ドル信認低下

 これはトランプ大統領の目的とするところというよりは副産物と考えるのが妥当かもしれません。

 直近のBRICS会合で貿易決済通貨を米ドル以外に切り替えることが議題になると報じられると、米ドルの使用を止めることは許さないと脅しを入れていましたので、米ドルの地位低下を望んではいないと考えられます。

 しかし、米国の輸出促進のために米ドル安を望んでいることや、関税によって対米貿易量を減らそうとしていることで貿易決済通貨としての地位が低下することもあって、世界的に米ドルを敬遠する流れが生まれてきており、米ドルの地位は揺らぎ始めています。

 歴代米大統領はドル信認低下に繋がる可能性があるので米ドル安を望むということは決して口にせず、「強いドルを望む」というフレーズのみが許されるという不文律があったのですが、トランプ大統領はお構いなしです。

How Trump Could Dethrone the Dollar


 おそらく根底にあるのは米国人は基軸通貨であることの意味を理解していないことが挙げられます。

 筆者は米国人の市場参加者の多くと接してきましたが、彼らのほとんどに共通して言えることは為替を理解していないことです。

 米ドルの経済圏に生きているため、為替の影響で物価が高くなったりするという経験をしたことがありません。

 旅行先で物価が安いと感じることはあっても、それは米ドルが強いからと理解しているので変動相場制の為替という概念はそこにはありません。

 基軸通貨国であるが故に、為替の影響を受けずに生活できているわけですが、基軸通貨の地位を失えば諸国において米ドルを保有する理由が減るため米ドルの価値が不安定になるだけでなく、変動相場の影響を受けやすくなることを意味します。

 米ドル・ペッグ制の国々や、中南米を主とする米ドル経済圏の米ドル離れも誘発するでしょう。


 そのような状態を望む大統領がいるとは思いませんが、トランプ大統領は自分の政策の影響を十分に考慮できていないがために、結果としてドル信認低下を招いているのだと思います。


QooQ