Trump nominates inflation hawk Kevin Warsh to replace Jerome Powell as Fed chair
元FRB理事あるいはホワイトハウスの大統領補佐官やウォール街勤務という経歴のためか、メディアにおいては妥当な選択という評価が多いように見受けられます。
Kevin Warsh Is the Right Choice for the Fed
利下げ志向という条件を付して候補者が選定されたので、その中ではましな選択ということかもしれません。
それでも、筆者としてはメディアの反応には違和感を覚えます。
はたしてメディアの評価は妥当なのでしょうか?
経歴
まず、ウォーシュ氏の経歴を辿ると、学校では法律を勉強し、卒業後に勤めたウォール街での経験を経て、ブッシュ政権の補佐官(経済担当)の一人となり、そこからFRB理事に就任しました。(理事退任後はあまり目立った経歴はないので詳細は割愛します)
これだけを見ると経済・金融政策に深い知見を有する専門人材のようにも見えますが、ウォール街ではM&A業務に就いていたので経済・金融政策について知見を培うポジションにあったわけではなく、それにも関わらず経済の専門家としてホワイトハウス入りを果たし、さらには同政権からFRB理事の指名を受けたことには疑問しか湧きません。
パウエル議長も似たような経歴と指摘する向きもありますが、財務省で政策運営に関わる仕事に携わるなどしてきたパウエル議長は自身の仕事ぶりに責任を負う立場であった一方で、ウォーシュ氏は大統領補佐官・FRB理事と意見を言うことはあっても責任を負うことはしていないことから、FRBの責任者として相応しいのか懸念を覚えます。
実績
FRB理事時代には、FOMCにおけるタカ派メンバーとして知られるため、利下げはしないのではないかと見る向きもあるようです。
トランプ大統領の事があるのでこのような見方は楽観的過ぎますが、タカ派であったことをどう評価すべきかという点についてメディアはほとんど触れていません。
ウォーシュ氏が理事であった頃は、筆者もディーリングルームで、理事たちの発言を一字一句追いかけていました。
当初は、インフレを懸念すべき情報を何か掴んでいるのかと気を揉んだり、グリーンスパン時代との決別として全会一致にはならないように敢えて反対票を投じていると勘ぐったりしましたが、インフレ率が低下しても、金融危機になってインフレ懸念がなくなっても、相も変わらずタカ派発言を続けたことで、この人の発言は聞く価値がないと学習したものです。
インフレを懸念する発言を繰り返していたので「タカ派」に分類されていますが、中身のない発言でマーケットを振り回したことを勘案すれば適切なカテゴリーは「アホウドリ派」です。
十数年前のことですが、メディアもウォール街もその記憶はすでに失ってしまったのでしょうか。
仮に当時のタカ派発言が適切なものであったと評価するとしても、需要が大幅に後退している時期にもインフレ懸念から利上げを主張していた当時と、需要が後退しているわけでもない現状において利下げを主張するのでは一貫性がありません。
インフレに対する考え方が変わったとおそらくは説明するのでしょうが、今も当時も経済に対する知見に基づく発言ではなく政治的理由による発言を行っていたと考えたほうが整合性があります。
ウォーシュ氏の人柄や実績に関しては、経済学者のクルーグマン教授はかなり厳しく批判しています。
就任後
ウォーシュ氏がFRB議長に就任するには紆余曲折がありそうですが、就任後のFOMC運営がどうなるのかが最大の関心事となります。
ウォール街は議長一人で出来ることには限界があると楽観視しているようですが、はたしてそう見ていいのでしょうか。
理事時代はタカ派として利上げを主張していたウォーシュ氏ですが、利下げ志向を条件としてトランプ大統領が人選したのですから、議長案は大幅利下げを軸としたものになることは想像に難くありません。
しかし、FOMCはメンバーの多数決で意思決定するため、議長が交代したところでトランプ大統領が求める大幅利下げ案が直ちに可決する可能性は低いです。(議長案が否決されるという前例がこれまでに無いので、本当にトランプ派以外のメンバーが反対に回るのか不安は残ります)
問題はここからどうなるかです。
FOMCは多数決による意思決定機関であるとはいえ、グリーンスパン時代には議長が政策決定を実質的に掌握する体制でしたので、トランプ大統領を意向を推進しようとウォーシュ氏が考えるならば、同様の体制を目指すことになります。
そのためには任期満了前の理事の入れ替えも模索することになるでしょう。
ウォーシュ氏はFRB批判を繰り返してきましたから、政策金利以外のところでも変更を追求していくと考えられます。
バランスシートの在り方は特に氏が批判してきたところですから、バランスシートの縮小を模索していくと思われます。
最近ではバランスシートを縮小すれば利下げ余地が生まれると主張しているようなので、FOMCに示す議長案はこの合わせ技になる可能性が高いですが、これもFOMCの多数決で阻止されることでしょう。
FOMCが政策判断において参考にする情報の見直しにも着手するかもしれません。
公表までに時間が掛かる経済指標に依存しているため判断が遅れると氏は批判していますので、より早く入手できる情報の活用によりフォワードルッキングな対応を可能にする体制を標榜すると考えられます。
その実現の一環として、調査チームの全面入れ替えといったこともあるかもしれません。(もちろん、これにより利下げを支持する情報を提供してくれるスタッフに入れ替えることも可能になります)
この批判自体は昔からあるものですが、入手は早いものの信頼度が劣る情報と、信頼度は高いものの入手が遅くなる情報と、どちらを使うべきかという議論に収束します。
もちろん、早く入手できる情報で正しい政策判断ができるのであればベストです。
しかし、現実には信頼度の低い情報で判断すれば間違った判断となる可能性が付き纏うことになります。
間違った判断を是正しながら運営をしていくことは民間企業ならば許されるでしょうが、国の金融政策を担う中央銀行としては、そのアカウンタビリティを果たすためにも、間違った判断よりも遅い判断のほうがベターというのが現行の運営です。
よりタイムリーな政策判断が適切にできるのであればいいですが、間違った判断とその是正を行うことが前提であればマーケットは混乱するばかりです。
FOMC決定が公表された後についても懸念点があります。
議長案が反対多数で否決されたとなれば、議長の暴走は阻止できているもののFRBの独立性が損なわれたことにマーケットが改めて気づかされることになります。
そうなればFOMCにてどのような議論が展開されたのか非常に気になるところです。
FOMC直後に議長は会見にて説明するのが慣例ですが、議長の意向に反して利下げしなかった場合、ウォーシュ氏はどのように説明するのでしょうか。
トランプ大統領に対する言い訳も必要になるでしょうから、議長個人の意見と反対メンバーの意見を使い分けながら説明するのでしょうか。
そうなると議長でありながらFOMCを批判することになりますので、組織の機能不全にもマーケットが気づくことになります。
定期的に行われる議会証言でも同様で、本来ならばFOMCとしての経済見通しや政策運営について説明するわけですが、ここでも個人の意見を展開するのでしょうか。
FOMCとは異なる個人的意見をもし展開するようであれば、マーケットの混乱は必至です。
トランプ大統領の説明によればウォーシュ氏を選んだ最大の理由は見た目ということですので、その見た目でマーケットを魅了してくれることを期待するしかありません。


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