A major subprime auto lender suddenly collapsed
Subprime Auto Lender PrimaLend Files for Bankruptcy
2007年の世界金融危機の発端とされるサブプライム問題を想起させることから、新たな金融危機の予兆ではないかと見る向きもあります。
19世紀終り頃から金融危機は度々発生していますから近い将来また起きたとしても不思議はありませんし、サブプライム住宅ローン市場の崩壊は世界金融危機を象徴する出来事でしたから、同じような状況が再来しているのであれば警戒が必要であることは言うまでもありません。
そのためには、2つの点において検証すべきでしょう。
一つは、サブプライム自動車ローン会社の破綻が個別の事情によるものであるのか、それとも市場全体に広がっている問題なのかという点です。
もう一つはサブプライム自動車ローン市場が崩壊すると、金融危機の引き金となりうるのかということです。
検証① ローン会社の破綻は市場全体に広がっている問題なのか
サブプライムとは、プライム未満の層、つまりローンを組むうえで信用力の低い層の借り手を指します。
信用力が低い理由には延滞等により過去の返済履歴に問題がある場合もあるでしょうが、自営業やフリーランスで収入が安定していない場合や、ただ単に信用を積み上げる実績を作れていない若年層の場合なども考えられます。
信用力が低いということはローンの審査や条件がその分厳しくなりますが、返済能力が十分に見込まれる場合もあるため、その見極めができるローン会社ならば商機が生まれます。
自動車ローン会社の場合、ローン期間が5年程度と短く済むことから住宅ローンに比べてリスクは遥かに小さく、仮に返済不能となったとしても自動車を差し押さえることで損失を限定できることから、返済能力に応じた条件で融資できるとの見立てになります。
しかし、これは個別のローンについて考えた場合です。
ポートフォリオ内のローンの多くが返済不能となってしまうと自動車を差し押さえたところで被った損失を穴埋めすることが次第に困難となります。
現状の米国の物価高を鑑みると、低所得層であるほど物価上昇に対して賃金収入が十分に伸びておらず、実質所得が減少している家計が多いのではないかと考えられます。
若干データが古いですが、JPモルガンによれば実質所得は概ね横這いの状況がここしばらく続いています。
実質所得の計算にはCPIを用いていますが、低所得層におけるインフレの影響はCPIよりも高くなっていると考えるのが妥当であるため、実質所得は減少していると考える所以です。
Sizing up real income gains December 2019 to March 2025
サブプライム層の多くは低所得層に属していると見なして差支えないでしょうから、実質所得の減少はローン返済の負担が相対的に増していることを意味します。
自動車ローン、住宅ローン、カードローン等の債務を抱える家計は、返済負担が大きくなりすぎるといずれかの返済を諦めることになります。
カードローンは生活に直結しているので、返済を諦めるという選択肢にはなりません。
住宅ローンの返済を諦めて賃貸に移るという選択は、家賃が上昇していなかったサブプライム問題の頃には有効でしたが、現在は物価高の影響もあって家賃も大幅に上昇していることから、この選択では住宅関連支出の負担が軽くなりません。
そうやって消去法で考えると自動車ローンの返済を諦めることが有力な選択肢となってきます。
実際、自動車ローンの延滞率を見ると、サブプライム層では大きく上昇していますが、プライム層では特に変化が見られないことから、サブプライム層の生活が苦しくなっていることが窺えます。
A significant group of Americans are falling behind on their car payments - an economic warning sign
ここから導けるのは、サブプライム層は物価高により生活が苦しい状況が続いており、ローン返済を続けるだけの余裕が無くなってきているということです。
したがって、今後もサブプライム自動車ローンにおける延滞や返済不能という状況が今後も高い水準で続くと予想されます。
これは当然ながら自動車ローン会社の収支が悪化することを意味しますので、業界全体で収益が圧迫されている状況になっていると推察されます。
しかし、先のTricolor社では、延滞や返済不能が高まったことが会社破綻の引き金を引いたと考えられるものの、破綻後の報道によれば放漫経営が行われており、それを隠すための不正会計も行われていたようです。
それだけサブプライム自動車ローンは良好な環境においては非常に収益性の高い商品であり、その収益の一部を不正に使用したとしても会社経営は安泰だったのでしょう。
しかし、環境変化により収支が急速に悪化した際に、こういう事態に対する備えを食い潰していたことが会社破綻に至った本当の原因と見るべきでしょう。
つまり、健全な経営を行っているのであれば、収支悪化に対する備えが相応にあるはずで、サブプライム自動車ローンの業界全体が破綻するとは考えにくいのです。
もっとも、JPモルガンのダイモンCEOが指摘しているように、ゴキブリが1匹いれば他にもたくさんいるはずだ、という懸念はあります。
JPMorgan's Dimon on Tricolor losses: 'It is not our finest moment'
銀行のトップの言葉ですから、不正疑いのある取引先がほかにもあるのかもしれません。
しかし、この発言は、不正な経営が業界全体で横行しているのではないかという融資している金融機関としては当然の懸念であり、金融危機の可能性を危惧したものとは思われません。
今のところは個社の経営上の問題にすぎませんが、今後、大手企業グループに属する業者が破綻するニュースが出てくるようであれば話は変わってきます。
会社を再建するだけの資本力があるにもかかわらず倒産させるということは、ビジネス継続に旨味がない環境、すなわちローン返済不能による損失が利益を上回る状況であることが示唆されるからです。
そうなると、サブプライム市場全体で収益を確保できない状態に陥っていると考えられます。
検証② 市場が崩壊すると、金融危機の引き金となりうるのか
では、サブプライム自動車ローン市場が崩壊すると、金融危機を引き起こすことになるのでしょうか。
ここで歴史の振り返りをすると、世界金融危機を引き起こしたのはサブプライム問題とされるのが一般的な解釈ですが、正確には住宅価格が上昇から下落に転じたことが引き金です。
金融危機が起こるまでは米国は住宅バブルの真っ只中でしたから、住宅価格がどんどん上昇し、1年保有しただけでも十分に売却利益が出せるような状況でした。
つまり、ローンで住宅を購入して、少しばかり保有したのちに売却するだけで収入が得られるので実践していた向きが多かったわけです。
当時は所得証明が無くともローンを借りることが可能であったため、実際には返済能力がない人間でもこのスキームを活用して利益を手にすることができました(現在はサブプライム問題の反省から借入時の審査が厳しくなっています)。
また、短期売却益狙いでないとしても、担保としての住宅の価値が日に日に上昇することから、住宅ローンとは別に担保価値の余剰分を裏付けとして借りるホーム・エクイティ・ローンが流行っていました。
住宅の最大担保価値までローンを常に借りている状態ですから、いくら返済しても債務が減らない危険な状態になっているわけですが、担保である住宅の価値が上昇していたので、借り手も貸し手も安心しきっていたのです。
いずれの場合でも、住宅価格の下落が始まると、担保価値が不足するようになることから貸し手は回収を気にし始め、借り手は追加の資金調達ができなくなります。
価格の下落が進むと住宅価値がローン残債額を下回るようになるので、住宅を売却してもローン完済できない人たちが発生します。
住宅売却のみがローンを完済する手段だった人たちにとっては由々しき事態です。
米国では担保である住宅を銀行に引き渡せば、住宅価値がローン残債額を下回っていたとしても不足分について請求されることはないため、早々に返済を諦めて住宅を手放す判断をする人たちが少なくありません。
この時点で住宅を差し押さえた銀行に損失が発生することは確定しているのですが、住宅価格がさらに下がって損失が膨らまないように担保住宅の処分を急ぐことになります。
その行為が多発することが住宅市場に更なる重しとなって価格低下に拍車を掛けます。
こうやって負のスパイラルに陥ったことで、返済不能に陥る借り手が増える一方、金融機関は信用供給をどんどん引き締め、最終的には世界金融危機に至りました(もちろんサブプライム問題には証券化商品としての問題点等他の要因もありましたし、金融機関の姿勢が変化したのも住宅市場以外の要因もありますが、ここでは割愛しています)。
借り手がこのような行動を起こしていたのはサブプライム層に限った話ではなくプライム層においても同様でした。
サブプライムローンにおいては実質無審査でローンを承認する等貸し手側にも無責任な行動が見られたこともあって返済不能が顕著であったことからサブプライム問題として注目されていたにすぎません。
現状に目を向けると、先の延滞率チャートではプライム層の延滞率には変化が見られません。
先の実質所得の話では、平均値は横這いながら、低所得層は実質所得が低下していると考えると、より高所得層であるプライム層の実質所得は横這いないし若干上昇と考えられるため、返済能力を毀損するほどに生活が苦しくなっているわけではないと見ることができ、このチャートはその考え方を裏付けてくれるものです。
サブプライム市場が破綻すれば大きな問題ではあるものの、プライム市場に波及する可能性は低いと見られることから、金融危機に発展する可能性も同様に低いと思われます。
プライベートクレジット懸念
上記検証により、サブプライム自動車ローン会社のことはあまり気にしなくとも問題なさそうですが、それとは別に気になる兆候があります。
それはプライベートクレジット市場の動向です。
プライベートクレジットは、銀行以外のノンバンクからの資金調達を指すもので、形態は様々です。
主にファンドによる資金供給が筆者としては最初にイメージとして浮かびますが、先述のサブプライムローン業者も銀行ではないのでプライベートクレジットの一角です。
プライベートクレジットの市場規模は1.7兆ドルあり、2030年には2.9兆ドルに達すると見られています。
2010年時点の市場規模は3000億ドルでしたので、驚異的なスピードで拡大を続けています。
世界金融危機時に、金融機関が信用供給姿勢を引き締めたことから資金調達が難しくなり、代替の資金調達ルートとして存在感を増してきたのがプライベートクレジットです。
懸念点は、市場規模が大きくなっていることだけではなく、金融機関とは異なり何ら監督下にないことにあります。
当局の監督下になければ直ちに問題が生じるわけではありませんが、過剰なリスクテイクが行われていたり、そのリスクテイクが上手くいかなかったときの備えが十分でなかったりした場合、ファンド等の資金の出し手が破綻するだけでなく、それが金融システムに影響を及ぼしかねません。
プライベートクレジットの形態がファンドであるとして、そのファンドがレバレッジを活用していなければファンドに出資している最終投資家が損失を被るだけで済みますが、レバレッジを活用しているのが通常ですので、そのための資金を供給している金融機関にも損失が波及します。
90年代に起きたLTCM破綻が正にこの構図で、ウォール街への影響は甚大なものでした。
LTCMは1290億ドルの資金を運用していたとされていますので、プライベートクレジットの市場規模の1割にも満たない規模です。
取引内容やレバレッジも異なるので単純比較できるわけではありませんが、これが破綻しただけで米国の金融システムは硬直したわけです。
世界金融危機時にもプライベートクレジットを問題視する向きは極めて少数派でしたが、実際に経済や市場が不安定になるとレバレッジの巻き戻しは凄まじく(これは金融機関がレバレッジ提供を引き締めたことと、ファンドが自らの安全性をアピールするためにレバレッジを引き下げたという両面があります)、資金の出し手としての機能は大きく損なわれました。
世界金融危機時にリーマン・ブラザーズが破綻したのも、ファンドへの資金供給に積極的だったことが要因の一つです。
透明性のないプライベートクレジット市場で何が起きているか兆候を掴むことは困難ですが、気になるニュースも見られます。
Egan Jones Probed by SEC Over Its Credit Ratings Practices
HSBC Reviews Ties to Hedge Funds With Credit Fears on the Rise
Egan Jonesの格付に関する調査は、世界金融危機時のサブプライム問題において証券化商品の格付に不正があったことが思い起こされるので、また同じようなことが繰り返されているのか気になるところです。
問題が生じていると直ちに決めつけることはできないものの、リスクシナリオとして頭の片隅に入れておくべきではないでしょうか。


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