世界金融危機以降に量的金融緩和(QE)として公開市場操作口座(SOMA)にて証券(主に米国債やモーゲージ債)を大量に買い入れたことを経て、QTではこのSOMAポートフォリオで保有する証券の残高を減少させる運営に変わり、今回はこのSOMA残高が減らないようにする方針に再度変わりました。
QEにはいくつかの狙いがあり、証券購入により流動性供給することや、債券購入により長期金利により直接的に関与することが挙げられます。
そのため、12月会合でTビルの新規購入が追加されたことからSOMA残高が増加することに着目して、一部ではQE再開と囃し立てる向きもあるようです。
メディアはFOMCの経済分析や利下げに関しては詳細に伝えているものの、QTについては終了と言及する程度で、その詳細内容について触れているところは筆者が見てきた限りではありません。
2022年公表のQTに関する基本方針の中でQT終了時の対応方針についても述べられていることもあって、QT終了は以前より想定されていた事でしたので、取材記者の関心が向けられておらず、定例会合後のFRB議長会見でもほとんど質問がありませんでした。
Plans for Reducing the Size of the Federal Reserve's Balance Sheet
SOMA残高の動きのみに囚われるとQEを再開したという結論が導かれても不思議ではありませんが、FOMCの決定内容を詳細に見ていくとこのような見方は全くの的外れで、寧ろQTは実質的に強化されている面があると言えます。
詳しくは以下にて見ていきます。
FOMC決定内容の確認
まずは10月および12月のFOMC定例会合にて決定されたSOMAに係る運営方針の内容について見ていきます。
<11月まで>
米国債:元本償還分のうち一定額超過分は米国債に再投資(つまり、一定額については再投資しない)【残高減少】
エージェンシー債・モーゲージ債:元本償還分のうち一定額超過分は米国債に再投資(つまり、一定額については再投資しない)【残高減少】
<12月以降>
米国債:全額米国債に再投資【残高維持】
※12月会合ではTビル新規購入も追加決定【残高増加】
エージェンシー債・モーゲージ債:全額Tビルに再投資【残高維持】
FOMC決定のうちSOMAに係る内容をまとめると上記の通りとなり、11月までは緩慢ながらもSOMA残高を減少させる運営が続けられていました。
しかし12月以降については、10月会合では元本償還分は全額再投資してSOMA残高を維持する運営に変更となり、12月会合ではこれに加えてTビルを新規購入することで残高を増やすことも追加決定されました。
これは2022年の基本方針に沿った対応で、FRBのバランスシートの負債サイドに応じた残高規模にまで縮小したことや、FF金利・レポ金利に上昇圧力が見られるようになっていることから流動性供給の観点からQT終了となったことが説明されています。
QE再開の見方を誘発したTビル新規購入ですが、4月の納税時期にバランスシートが変動することに前もって対応するという説明も為されています。
残高のみを基準とするならばQEと言えるかもしれませんが、ゼロ金利下の流動性供給とは意味が異なるので単純にSOMA残高が増えるからといってそれをQEと呼ぶのは拙速に過ぎます。
現状の金利水準においては更なる金融緩和の必要性を感じているならば利下げをすればいいわけですし、供給している流動性の大部分も巡り巡って市中銀行の預金としてFRBのバランスシートに還流しているだけなので、今回のTビル購入を金融政策の一部と見るのは無理があります。
注目すべきはSOMAオペレーションの中身
筆者としてはSOMAの合計残高ではなく、その内訳に目を向けるべきと考えています。
Tビル新規購入分を除けば米国債の運営方針についてはあまり変わっていないのが実態です。
しかし、エージェンシー債・モーゲージ債については目立った変更があります。
11月までは米国債に再投資する方針だったところ、12月以降はTビルに再投資する方針に変わりました。
エージェンシー債・モーゲージ債の保有残高は1月時点で2兆ドルありますが、これらが順次Tビルに振り替わっていくことになります。
Federal Reserve Balance Sheet: Factors Affecting Reserve Balances - H.4.1
2兆ドルの99%以上はモーゲージ債であり、モーゲージ債には期限前償還がありますので、かなり早いペースでTビルに振り替わっていくことを意味します。
これまでは米国債に振り替わっていたので長期金利に対して相応の下押し圧力が維持されていましたが、この度の決定で圧力が解かれたということです。
この方針が継続すれば、6.2兆ドルの残高があるSOMAポートフォリオの3割以上はTビルが占めることになり、裏を返せばSOMAポートフォリオが長期金利に及ぼす影響が現状の6割程度に低下します。
長期金利上昇は不可避
SOMAポートフォリオによる長期金利の押し下げ効果は1%程度あるとも言われていますので、この効果が半減すれば長期金利の上昇に繋がります。
長期金利への影響という観点では、意図しているのかしていないのか、QTを停止するどころか強化したことになります。
これが一連の変更の中でもっとも注目すべき点と筆者は考えています。
SOMAの米国債ポートフォリオは主に中長期債で構成されており、特に10年超の超長期債が顕著に多いのが特徴です。
System Open Market Account Portfolio(Treasury Securitiesデータ参照)
このためポートフォリオの加重平均満期(WAM)が9年程度と長く、FOMCメンバーの多くは米国債市場のそれと同程度にすべきと考えています。
保有証券を売却するという選択肢はないためTビルを増やすことでWAMを短くしようという狙いです。
WAMを短くしてSOMAポートフォリオの健全性を高めるのはFOMCとして至極当然な考え方ですが、長期金利への影響が過小評価されているのではないかと危惧します。
もし意図していることならば、利下げすることでトランプ大統領の要求に従って金融緩和を演出する一方で、長期金利を上昇させ金融引き締めも同時に行うことで緩和効果を相殺するという政治的に高度なオペレーションを実施していることになります。
FOMCの真意は不明ながら、SOMAポートフォリオのオペレーションが進行するにつれ、長期金利への上昇圧力が増していくことは確かです。
トランプ大統領が2000億ドルのモーゲージ債を指示していますが、SOMA保有分の1割の規模しかないので相殺効果は限定的でしょう。
Trump announces $200B bond purchase in bid to lower mortgage rates
しかも、その購入主体はモーゲージ債の発行体でもあるファニーメイとフレディマックですから、本当に実行するならば同規模のエージェンシー債の発行が必要となり、よって相殺効果は全くないとも考えられますから、SOMAポートフォリオの影響だけが残りそうです。


0 件のコメント:
コメントを投稿