Trump lauds Japan’s pledge to invest $36 billion in U.S. oil, gas and critical mineral projects
すでに候補として取り沙汰されて案件に落ち着いたようで、第二弾案件も同様になりそうです。
The $550 Billion US-Japan Strategic Industrial Fund: Recommendations from the Private Sector
投資回収の可能性に懸念が残るものの、案件として本当に成立するならば米国だけでなく日本も恩恵を受けることが可能な案件が選ばれているようです。
対米投資の実務詳細がいまだに不明
先の日米合意にて定めた手続きに従うならば、トランプ大統領が最終決定権者として案件を選出し、直ちに日本から資金が拠出されることになります。
通常のプロジェクトファイナンスであれば資金が必要となるフェーズ毎に逐次必要額を投入していくのですが、本対米投資では一括で資金を拠出することになります。
まだ資金の必要が生じていない当初から巨額の資金が口座に滞留することとなるので、その資金管理は正しく行われるのか懸念を覚えます。案件が合意されたにも関わらず、投資主体が誰であるかすら判然としない状況なのですから。
日本のメディアは日本企業が投資主体となると思っているフシがあるのですが、日本企業が行う対米投資とは別枠で本件85兆円枠が設定されたのですから、投資主体は原則として米国側にあると考えるのが妥当です。
それ以上に気になるのは、この投資をどうやって実行するのかという実務面です。
資金提供者は政府系の国際協力銀行(JBIC)や政府保証を受けた民間銀行と説明が為されており、期日までに投資主体が設定するSPVの口座に送金するものと想定されます。
概要としてはこれまで行われてきた対米投資と大きな違いはないと思いますが、問題となるのは金額規模が85兆円と巨額であることとその金額を米ドルで調達する必要があるということです。
銀行なのだから出来て当然と思えるかもしれませんが、無から資金を作り出す権能は持っていません。
何らかの方法で85兆円相当の米ドル資金を銀行は調達する必要があります。
一括で全額拠出するわけではないにしても、トランプ大統領在任中に全額実行する取り決めになっているので短期間に集中して資金を拠出することになります。
ここでは便宜上、一括して85兆円全額拠出し、先の通りJBICと民間銀行が負担するケースを検討します。
金額規模が大きすぎる
まず、85兆円という数字がどの程度の規模であるか見てみたいと思います。
日本の国家予算(2025年度):117兆円
うち税収(2025年度):78兆円
日本の社会インフラ更新費用(概算見積もり):100兆円
ウクライナ再建費用(世界銀行試算):約91兆円(5880億ドル)
日本人が国に納める税金全額を投入しても足りない規模の金額です。
JBICと民間銀行の負担割合は不明ですが、極端なケースとして一方が全額負担する場合を考えます。
JBICが負担する場合、調達方法は債券発行と政府からの借り入れの2通りが考えられます。
JBICの財務諸表によれば、2025年3月時点の債券発行残高は6.1兆円、借入残高は8.7兆円となっています。政府系とはいえ、あわせて15兆円規模のポートフォリオしか持っていない銀行に6倍近い規模の資金調達およびその管理ができるのでしょうか。
政府からの借り入れで賄うとしても、政府はこの金額で財源を見つけられるはずもなく、国債を発行して調達することになるので、発行者がJBICか日本政府かの違いにすぎず、実質的に債券発行での調達一択となります。しかし、日本国債の2025年度新規発行額は40兆円ですから、この倍額以上を債券市場で一気に調達することは不可能です。
では、民間銀行ならばどうでしょうか。
国内銀行の融資残高は628兆円(2025年12月時点)に対し、預金残高は945兆円ですので、単純に考えると300兆円超が余資となっている状況です。この余資のうち85兆円を振り向けることで実現できるように見えますが、余資の大半は国債運用に充てられているので保有国債を売却することとなり、やはり問題が起きます。
政府からの借り入れという方法で資金を調達すればJBICと同じことになります。
日銀から借り入れることも考えられますが、日銀が現行設定している制度では多額の資金を長期に借りられるものがありません。特別に専用の制度を設定するとしても、約700兆円のバランスシートをさらに膨らますことができるのでしょうか。
必要なのは日本円ではなく米ドル
仮に、何らかの方法で85兆円の資金を調達できたとして、米国に送金する際には米ドル建ての資金にする必要があります。
為替市場で円売りドル買い取引を行うことが考えられますが、これは政府が90年代以降に行った為替介入(円売りドル買い)の総額に匹敵する規模ですから、為替レートが際限なく円安に向かう怖れがあります。
仮に5兆円で為替レートが1円変化するとすれば、為替レートは少なくとも170円台半ばに達すると考えられます(そうなると必要な米ドル資金も満額確保できません)。
高市政権は円安を歓迎するかもしれませんが、トランプ政権はそのような円安を看過することはできないでしょう。
為替レートに影響を与えないようにするならば、外国為替資金特別会計(外為特会)にて保有する米ドル資金を放出することが考えられます(法的実現可能性は考慮していません)。外貨建て証券(主に米国債)の残高が138兆円ありますから、これを取り崩せば85兆円相当の米ドル確保は可能と考えられます(通貨別内訳は公表されていないため、推測に基づきます)。
しかし、そのためには米国債85兆円分を売却することになりますから、実行すれば米国債市場の大暴落を招くことになります。
当然、この選択肢もトランプ政権は受け入れないでしょう。
考えられる選択肢として、FRBからの資金調達が挙げられますが、これも問題含みです。
一つ目は、日銀とFRBが締結している通貨スワップ協定を活用する方法です。
日本円と米ドルの資金を無制限で交換できる取り決めですから、日銀がFRBと85兆円分の資金を交換し、受け取った米ドル資金を銀行に還流させれば、市場の混乱を招くことなく米ドルを確保できます。
問題は、通貨スワップ協定は金融危機等で市場が混乱し国内銀行の米ドル資金調達に支障が生じている状況での活用が想定されているので、そのような状況が起きていない段階で活用できるのか不明な点です。
通貨スワップ協定を活用しなければ市場の混乱は不可避という理屈で利用できるようにするのでしょうか。
FRBとしても、バランスシートの約1割を使い道のない日本円資金が占めているという状況は困るという問題もあります。
二つ目は、米国に支店を有するメガバンクがFRBの貸出制度を利用する方法です(この方法が使えるならば日本円での資金調達は不要になります)。
FRBも、金融政策の一環として流動性を供給、もしくは銀行システム保全のための資金供給のための制度しかないため、日銀の場合と同様に多額の資金を長期に借りられる制度がありません。
仮に新たに制度を創設するとしても、信用リスクというハードルをクリアできるのかという疑問が残ります。
85兆円相当の資金をメガバンクに貸し出すことができるのか(メガバンクの信用は十分なのか)、信用補完のために担保を受け入れるとして日本国債は適格担保となるのか(日本政府の信用は十分なのか)という2点です。
対米投資は結局実行不可能なのでは
このように金額規模が大きすぎることと、それを短期間で調達する必要があることで、本件対米投資は実務的に実行が極めて困難な投資プログラムとなってしまっています。
それとも、筆者が見落としている実行可能な選択肢があるのでしょうか。
案件に関与する各企業は資金面のことは当然考えていないでしょうし、資金面の窓口となる銀行は政府が何とかするだろうぐらいにしか考えていないと思います。
金融に明るい人材が日米双方の政府内にいないのですから、実務面の検討が疎かになっている可能性が高いです。
資金送金の段階になって初めて銀行が騒ぎ出すのではないでしょうか。


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