UK economy was G7 growth laggard in Q3 as dismal 2023 beckons
さらに、英国家統計局の発表では、英国の2022年実質GDPはコロナ禍前水準よりも0.8%低いと推計されています。
コロナ禍初期のロックダウンによる落ち込みのインパクトが大きく、そこから立ち直ることに苦労しているように見えますが、果たしてコロナ禍だけが英国経済の低迷をもたらしているのでしょうか。
名目GDPはプラス成長ですので実質GDPを押し下げているのはインフレ要因が大きいわけですが、日本を除く各国に共通する要因でもありますので、英国が躓いた理由を考察してみたいと思います。
足元のインフレの種はコロナ禍前にある
2016年の国民投票の結果、英国は2020年にEUから離脱しました。いわゆるBrexitです。
国民投票前の世論調査では離脱を否定する残留派が優勢でしたので、当時の首相は国民が離脱を否決してくれるものと考えて国民投票を実行したのではないかと考えられます。
しかし、結果は事前予想を覆すものでした。
EUにおいては各国が平等に投票権を有しているため、英国の発言力は大陸の小国と同じでしかないことに不満があったこと、つまり英国が軽んじられているとするエゴが離脱賛成が最終的に上回った表向きの理由となっています。
たしかにEUに対する不満はありましたがそのような理由ならば事前調査でも見えていたはずです。事前調査とは異なる結果になったということは、離脱賛成派が上手く立ち回ったことや、EU離脱は反体制的な匂いがするので面白半分で離脱賛成に票を投じた国民が多かったのではないかと思われます。(離脱賛成派が上手く立ち回ったことに関しては、他国の介入がウラであったのではないかと筆者は考えており、これに関しては別の機会に考察したいと思います。)
国民投票により離脱が決定したものの、実際に離脱するまでには紆余曲折がありました。
一番の問題は、英国と他のEU諸国の間に国境が復活するということです。
EU内ではヒトやモノの移動が自由でしたので、ドーバー海峡を挟んで英国と大陸の間の移動はフリーパスだったのが入出国や関税の管理が復活することで、煩雑な手続きが必要になることや、そのためのインフラが必要になります。
輸出入業者にとっては手続き対応や関税等のコストアップ要因になりますし、関係国にとってもインフラ整備のコストが必要となります。
一方で、そのコスト増により採算が合わなくなる輸出入の貿易量が減少することとなります。Brexitが実施されなかった場合と比べて英国・EU間の貿易は16%以上落ち込んでいるとする研究結果もあります。
Trade from UK to EU 16% lower than if Brexit had not happened, report finds
日米欧の貿易量はすでにコロナ禍前の水準に回復しているにもかかわらず英国については回復が鈍く、この差はBrexitによるものと考えられます。つまり、一時的な落ち込みではなく、英国の経済基盤に大きな変化が生じているということです。
Brexit has cracked Britain’s economic foundations
インフラ整備を担うEU各国としても、英国の我儘でしかないBrexitが無ければ支出の必要がなかったコストですから、積極的にコストを支出してまで整備しようという動きにはなかなかなりません。
英国側も離脱はするもののヒトやモノの移動に関する条件は離脱前と同じ、すなわちフリーパスにしてほしいと自分勝手なリクエストを繰り返していたので、どうしてもEUが受け入れてくれないと諦めた段階からインフラ整備を本格化させたので、十分な準備が整わないままの見切り発車となりました。
これにより、ドーバー海峡を渡りたいトラックが連日大渋滞するという事態を引き起こし、物流のボトルネックとなっています。
そのため、英国のスーパーマーケット等では常に品不足が発生しており、次回入荷も見通しが立たない状況が続いていると言われています。
What's been causing lorry queues at Dover?
コロナ禍でロックダウンしている最中は買い占め等の影響と見られていたため問題の本質が顧みられることはありませんでしたが、経済活動が回復するに連れてボトルネックによる影響も大きくなり問題視されるようになりました。
夏休みシーズンには観光客が渋滞に加わることとなり、この事態をさらに悪化させました。
海峡の両側で互いに文句を言うばかりで、ボトルネックを解消するための努力がなされていません。
インフレが企業や家計を圧迫する
英国独特のこのサプライチェーン問題が英国のインフレを他国よりも悪化させています。コロナ禍からの回復に伴う一時的な需要増によるインフレもありますが、根本的には供給が落ち込んで需要に追いついていない状況が続いていることが英国のインフレの根本原因です。
需要増によるインフレならば賃上げを伴うはずですが、供給サイドに問題があるため賃上げには結びつかず、実質所得が17年前の水準にまで落ち込んでいることが経済を低迷させる要因になっています。
UK inflation hits 41-year high of 11.1% as food and energy prices continue to soar
UK wages next year will be at their lowest level since 2006, report says
インフレに対応した賃上げを要求する様々なストライキが計画・決行されていますが、雇用者としては賃金を引き上げるだけの収入(企業収入・税収)の展望が描けずに対応したくともなかなか動けないでいるのでしょう。
Britons urged to avoid risky activity as paramedics join strikes. How did things get so bad?
その結果、実質所得が低下し、購買力が下がることで消費活動もそれに応じて低迷します。
World Cup and Black Friday fail to stop surprise fall in UK retail sales
昨年7月時点で、英中央銀行は英国経済の見通しの悪さについて警鐘を鳴らすほどの状況になっていましたが、足元の状況はすでにその見通し以上に悪化しているのではないでしょうか。
Bank of England tells lenders to brace for economic storm
Brexitが経済低迷を招いている
英国は世界のリーダーであるというエゴがBrexitを選択させたのか、それとも他国の介入で選択させられたのか筆者としては気になるところですが、いずれにしろEU離脱を選択したことで英国民は自分の首を絞めることとなりました。
もちろん残留派の英国人はBrexitがもたらす弊害に気づいていたでしょうし、最近の世論調査でもBrexitは間違いだったと考える人が次第に増えています。
残留派の代表格であるロンドン市長のサディク・カーン氏は、Brexitが金融街シティに大きな損失をもたらしていると訴えています。金融取引の減少や金融人材の流出により金融センターとしての地位が低下しているにもかかわらず、政府は見て見ぬふりをしていると非難しています。
London Mayor Khan Warns of ‘Immense’ Brexit Damage to City
離脱派はEUを離脱することで多極化時代における極の一つになることを夢見たのかもしれませんが、もともと何ら戦略性のないEU離脱ですから、極の一つになれる見通しが立たずにいます。
元覇権国家としての矜持かエゴか
さらに、元覇権国家という意識がそうさせるのか、世界情勢の動向に米国とともに積極的に関与していることが多い英国ですが、費用対効果に問題があると考えられます。
米国であれば世界1位の経済を有している国家として、世界情勢を自国に有利となるように働き掛けることは自国経済にて得られる直接的間接的なリターンも大きいと考えられますが、英国経済は世界5位とはいえ米国の7分の1程度でしかなく、得られるリターンも相応に小さいと考えられます。
EU内のリーダーとして欧州経済が受ける恩恵も考慮してのことならば、まだ正当化されますが、EUを離脱した現在では、国力に見合った行動を考えなければならないでしょう。
つまり、英国は身の丈に合った選択ができないがために、結果としてジリ貧の選択を続けてきたということです。
日英同盟再び
Brexitにより英国はEU各国を切り捨てました。
また、エリザベス女王が亡くなったことでコモンウェルス・オブ・ネイションズ(旧大英帝国の領土であった諸国で形成される国家連合)は脱退を含め英国との関係見直しを模索し始めています。
Charles' succession stirs Caribbean calls for reparations, removal of monarch as head of state
民主主義国家のリーダーを自ら任ずる英国としては、中露とは手を結ぶわけにはいきません。
米国は利害が一致している時しかそもそも当てになりません。
つまり多くの国々と英国は疎遠になっているわけです。
その中で日本だけが政治的に反目する理由がないため、英国側から積極的に近づいています。
もともと、EU離脱後は日本との貿易関係を強化することで大陸との関係において発生する経済的損失を補填すると、英国政府は国民に説明していました。しかし、それすらも実現できていません。
日本からすればEUに属していない英国は経済的な魅力に欠けるからです。
貿易面で見ると、日本にとって貿易パートナーとしての英国の地位はあまり高くなく、貿易量総額は欧州内でもっとも大きいドイツの4分の1程度でしかありません。
日本政府としても、英国から貿易拡大の打診を受けても英国内の需要しか見込めないわけですから、EUとの貿易拡大を優先させるでしょう。
EU内拠点としてもっとも魅力的であったロンドンですが、Brexitにより大陸側の都市にその地位を明け渡してしまったため、日本企業の貿易や金融の拠点も大陸にシフトしています。
低迷から抜け出す打開策が見当たらない英国経済
1月11日に行われた日英首脳会合では、中露を意識した安全保障・軍事に係る協議が行われましたが、貿易に係る協議は行われなかったようです。G7ホスト国である日本側の意向が優先されたという面はあるでしょうが、英国としては折角の機会を有効活用できないほどに発言力が低下していることが見て取れます。
Japan hugs UK close as it seeks to push back against China
一世紀前は英国の権益を守るために日本を利用するという側面のある日英同盟でしたが、今回は英国が生き延びるために日本に利用されてでもしがみついている状態で、英国の余裕のなさが窺えます。
頼みの綱である日本としては英国の都合に応えるだけの理由が見当たらないため、英国政府が何らかの打開策を見出すことができなければ手詰まりです。
そうなれば英国はどこに向かうのでしょうか?国家の仕組みを維持できない、インフレに喘ぐ貧乏国家になるのでしょうか?
英国の低成長や抱えるリスク要因から、すでにエマージング国家並みと指摘している市場関係者もいます。
British pound is taking on ‘emerging market’ characteristics, Bank of America says
そのようなシナリオを避けるためにはEU内に留まるべきであったところ、Brexitという自らに死刑執行宣言を下す決定を英国民はしてしまいました。


0 件のコメント:
コメントを投稿