米国防総省によると、軍事施設の偵察を目的として中国から飛来したスパイ気球であるとのことですが、中国政府は民間による天候観測用の気球がコースを逸れたもので、米国領空に入ったのは偶然に過ぎないとしています。
中国の説明を受け入れなかった米国はスパイ気球として撃墜し、中国がそれに反発するなどの非難の応酬が続いています。
Spy balloon row: High-altitude spying marks new low for US-China ties
US downs Chinese balloon, drawing a threat from China
気球の目的が何であれ、中国が飛ばしたものである点では両者の見解が一致しています。軍事偵察目的ならば中国政府は自国の気球であると簡単には認めなかったと思われるので、直ちに認めたということは中国の言い分がおそらく事実に近いのではないかと筆者は見ています。
どちらの言い分が正しいかは知りうることのできない問題ですが、それよりも問題なのは米国はなぜこの件で騒いでいるのかという点です。
米国の言い分には疑問が多い
両国の言い分には疑問が残るので額面通りに受け入れることはできませんが、米国の言い分はとくに疑問を多く感じます。
<疑問①>
米国は国家主権の侵害として中国を非難していますが、過去に同様の事案が発生した際には中国を糾弾することは一切していません。この対応の違いは何に起因するのでしょうか。
<疑問②>
米国は、早々にこの気球が中国のものであると断定していますが、そのためには気球が中国から離陸するところを感知していなければなりません。
その段階からモニターしていたのであれば太平洋側から領空に侵入した際に撃墜できたはずですが、なぜそうしなかったのでしょうか。
米国にとって気球は軍事的脅威ではなかったから地上に対する安全を確保すべく大西洋上で撃墜したと言っていますが、脅威ではないならばそもそも撃墜の必要もなかったのではないでしょうか。
<疑問③>
騒動の発端は、米中西部のモンタナ州での目撃がSNSを通じて拡散したからとされていますので、それまでは政府・米軍は静観していたことになります。
国民が騒がなければ最後まで静観するつもりだったと考えられますが、そうならばなぜ中国の謝罪を受け入れなかったのでしょうか。
<疑問④>
気球のコースが複数の米国内軍事施設の近くを通っていることから軍事偵察が目的であったと米国は断定していますが、米国内の軍事施設は無数あるため、どのような横断コースを通っていたとしても軍事施設の近くを通ることになります。
つまり、軍事施設の近くを通っただけでは故意なのか偶発なのか判然としないはずのところ、なぜ断定できたのでしょうか。
<疑問⑤>
ブリンケン国務長官の訪中の直前に騒動となったのは偶然なのでしょうか。
中国が自国の気球が米領空内に入ったことに謝罪したものの、国務長官の訪中はキャンセルされました。
訪中の目的が米中の緊張緩和でしたから、その目的を果たすには謝罪を受け入れて訪中を予定通りに行うという選択肢もあったはずです。
しかし、米国は、中国を非難し、訪中をキャンセルし、気球を撃墜と寧ろ緊張を高めるべく動いています。
緊張を高めようとしているのは軍産複合体か
この背景には緊張緩和を望まない軍産複合体がいると考えると、疑問に答えを付けることができます。
ロシアがウクライナに侵攻して以来、各国が軍備増強に動き始めたことで軍産複合体は息を吹き返しました。
ウクライナ侵攻では米国は当事国の一つではないため、軍産複合体としては米国が当事国となるところでの緊張の高まりがもっとも望ましいでしょう。
つまり、米中関係は恰好のターゲットです。
台湾問題等々緊張を高める材料には事欠かないのですから、国務長官の訪中による緊張緩和に向けた流れさえ阻止できれば、緊張状態を維持し続けることは難しくありません。
そこにこの気球が都合よく飛来してきました。
軍産複合体が動いたと考えると、気球が中国のもので軍事偵察目的であると断定する、国務長官の訪中をキャンセルする、気球を撃墜する、という一連の流れが軍主導で意図的に作られたと納得がいきます。
過去に同様の事案が発生した際には、軍産複合体の影響力が低下していたため問題とならなかった点も説明がつきます(米国防総省は過去の事案では感知できなかったと言い訳していますが)。
早期に撃墜されなかったのは、米軍が撃墜を進言したにもかかわらず政府が動かなかったか、国民の反中感情を煽るために敢えて目撃させたか、どちらかと考えられます。
そうなると、SNSで拡散されたモンタナ州での目撃例も軍産複合体のやらせの可能性が出てきます。
モンタナ州は軍産複合体と結びついている共和党が極めて強い地域であることも見逃せません。
どちらにせよ、いたずらに緊張を高めたくないにも関わらず、バイデン政権は国民の声に対応せざるをえない状況に追い込まれ、その結果米中間の緊張が高まりました。
さらに共和党はバイデン政権の撃墜対応が遅いと非難し、緊張をさらに高めるべく声を上げています。
バイデン政権は米中関係をコントロールできるのか
軍産複合体が動いたというのは推測にすぎませんが、気球問題による緊張の高まりはバイデン政権の望んだ結果ではないという状況証拠はあります。
ブリンケン国務長官は訪中キャンセルする際に、その旨を中国のカウンターパートに直接伝達しています。
駐米大使に伝えれば済むことを、時差のある中国に連絡しているわけですから、訪中キャンセルは本意ではないというサインを送っています。
バイデン大統領も気球の撃墜に際して中国政府に通告していますから、こちらも止むを得ない選択であり、緊張を高めることは本意ではないというサインを送っています。
こうしてバイデン政権は米中間の緊張をコントロールしようと努めているわけですが、実際には緊張を高めたい勢力に振り回されているわけであり、今後も米中関係はなかなか緊張緩和には向かわない状態が続くのだろうと考えられます。


0 件のコメント:
コメントを投稿