Secretary-General's briefing to the General Assembly on Priorities for 2023
演説内容は、世界の先行きに対して強い懸念を示すもので、各国に対して平和と協調を訴え掛けました。
国連事務総長が各国に平和や協調を呼び掛ける演説は珍しくありませんが、今回は核戦争に対する懸念を繰り返し示しており、一年前の演説にはなかった危機感に溢れている印象を受けましたので、ここにその一部を紹介したいと思います。
終末時計
グテレス事務総長は、まずは終末時計について触れています。
終末時計は、第二次世界大戦後に核戦争などによって地球が滅ぶことを危惧した科学者たちが考案したもので、終末まで〇分前といった形で世界情勢の危険度を視覚化したものです。
冷戦時代には2分前、ソ連崩壊時には17分前と世界情勢を評価してきた終末時計ですが、直近の更新では90秒前という評価結果になり、終末時計の運用が1947年に始まって以来、もっとも終末に近い評価となりました。
この評価に至る理由はいろいろとありますが、これらのうちグテレス事務総長はロシアによるウクライナ侵攻、気候問題、核兵器使用の脅威がこれまでの世界の枠組みを崩壊させていることについて言及しています。
終末時計は象徴にすぎませんが、世界を取り巻く状況がいかに危機的であるかを端的に示しており、各国が目先の利益に囚われている場合ではないことは明らかです。
平和の後退
グテレス事務総長は、世界は望んで広範な戦争に突き進んでいるのではないかと危惧し、平和のために各国が一層努める必要性を訴えています。
危険な地域として以下6件を具体的に挙げています。
①ロシアによるウクライナ侵攻はウクライナ国民を苦しめているだけでなく、世界にも多大な影響を与えているうえに、さらにエスカレートするリスクもある。
現代において戦争というものは経済合理性がないので起きえないと考えていた人たちにとってはショッキングな事態だと思いますが、これによって世の中の流れが米国一極体制から多極化に向かっていることを象徴する事態と言えるでしょう。
②パレスチナとイスラエルの問題では両者による平和的な解決は日に日に遠のいている。
ネタニエフ氏は中東戦争で戦った元軍人で、1996年以降繰り返し首相や閣僚を務めています。パレスチナやイランなどに対する強気の姿勢で知られる政治家です。
イスラエルはアラブ各国に敵視されているだけでなく、国内においてもアラブ人の人口がユダヤ人を上回るようになってきていることから、ユダヤ人の国としてのアイデンティティを保つことが最優先となるため、強気の政治家が好まれると考えられます。
これまではイスラエル最大の庇護者であった米国の力も当てにできなくなってきたことから、無策のままでは中東の中で埋没していくことは自明であるため、イスラエルとしては対立を強めるしか選択肢がなくなっています。
③アフガニスタンでは女性・子供の人権が蹂躙され、テロ攻撃が続いている。
教義を優先するあまり、長く続いた戦争から国を立て直すことが急務であるにもかかわらず、その道筋をつけることすらできない状況が続いています。
また、各地にいるテロリスト等の武装組織が治安を悪化させています。
タリバンは以前のタリバンとは違うと欧米を安心させるようなことを言っていましたが、宗教的教義がある以上はトップの考えが何であれ末端は教義に基づいて行動するのですから、違いが出るはずがありません。
欧米もそのことは分かっていたはずですが、アフガニスタンでの消耗を嫌って信じたフリをして現地から撤退しました。
④アフリカのサヘル地域ではセキュリティが驚くべき速度で崩れている。
テロリストや犯罪組織により治安維持が難しくなっており、干ばつや人口急増による食糧不足が事態の悪化に拍車をかけています。
この地域にあるナイジェリアは人口2億人余りと世界第7位の水準ですが、2050年には4億人を超えて世界第3位の人口になると予測されています。
社会が安定していたとしてもこれだけの人口増加に対応するのは難しいと思われますが、治安問題・天候問題が加わって一層難しいものにしています。
⑤ミャンマーでは新たな暴力と抑圧のサイクルに突入している。
経済は崩壊し、物資不足も深刻になっています。
クーデターを受けて欧米はミャンマーに対して制裁を科していますが、日本は何もしていません。
制裁を科すことが正解とは限りませんが、ロシアに対しては欧米と足並みを揃えて制裁を科しているわけですから、この違いは何なのでしょうか。
現地に進出している財界に対する配慮ということはありえません。進出企業の多くが縮小・移転に動いているからです。
政界がミャンマーとの結びつきが強く、その中心にいたのが岸信介氏や安倍晋三氏だったという話がありますが、それが事実ならばミャンマー国軍と結びついているということでしょうか。統一教会と同じような構図なのは偶然なのでしょうか。
いずれにしろ日本政府の姿勢はミャンマー国軍を支援しているだけではないでしょうか。
⑥ハイチではギャング抗争が国全体を人質に取っている。
国連平和維持軍は2017年に撤退しますが、これにより治安は再度悪化し、ギャングが蔓延る事態となっています。2021年には大統領暗殺事件も起きています。
ギャングが住民を暴力により支配しており、社会インフラは機能していません。その結果、コレラが蔓延し、食糧不足に陥っています。
国連および現地政府は各国に対して軍隊の派遣を要請しています。
このような事態に至っては平和維持軍の再派遣は当然のように思われますが、主要国の反応は鈍いようです。
ここで興味深いのはグテレス事務総長が言及した内容だけでなく、具体的に言及しなかったこと国々があることです。
昨年の演説では多くのホットスポットについて言及していましたが、今回はかなり限定しています。
昨年のように列挙すると米中も含めざるをえなくなるから限定したのではないかと考えています。
国連安保理の常任理事国の一つが挙がっているだけでも問題なので、5か国中3か国という不名誉な事態は避けたかったのでしょうか。
事務総長といえども米中を非難するような発言は難しいということでしょうか。
上記具体例のほかに20億人が紛争や人権問題に晒されているとグテレス事務総長は訴えていますので、この中に米中を含めるのが精一杯というところでしょう。
いずれにしろ国連の限界を露呈しています。
しかし、それでも国連は世界各国が対話できる唯一の場です。
各国が、国連憲章の精神を尊重し、国連の危機感を共有してくれることを望むばかりです。


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