シリコンバレー銀行破綻で世界はなぜ混乱するのか

2023/03/14

米国

 3月10日、米銀のSilicon Valley Bank(以下、SVB)が破綻し、当局の管理下に置かれることとなりました。

Here’s how the second-biggest bank collapse in U.S. history happened in just 48 hours

 予兆を感じ取っていなかった市場関係者の多くがリスク回避行動を起こした結果、株安・債券高(2年債はわずか1週間で約70bpの動き!)といった動きを市場は見せています。

 SVBが破綻した原因は金利上昇にあるとされており、他の金融機関も同様ではないかとの懸念から信用不安に発展しています。

 金融システムがFRBの利上げに耐えられなくなってきた証左と見る向きは、FRBを強く非難しています。

 FRBが次回FOMCでは利上げを停止するという予想も出てきています。


SVB破綻経緯

 3月8日にSVBは約23億ドルの資本調達の必要を公表したところ、取引先であるベンチャーキャピタルやその出資を受けているスタートアップ企業によるパニック的な預金引き出し(いわゆる取り付け騒ぎ)を誘発したため、3月10日に当局が介入して銀行預金の保全を図ったというのが、破綻に至る経緯の概要です。

 銀行破綻としては米国史上2番目の規模の大型破綻となりました。


 もう少し詳しく見ていきましょう。

 SVBは1983年に開業した銀行で、その名前が示すようにシリコンバレーのテック系スタートアップ企業に預金・融資といった銀行サービスを提供しています。

 スタートアップ企業の出資者であるベンチャーキャピタルとの取引も多いことから、出資を受けているテック系およびヘルスケア系のスタートアップ企業の約半数はSVBの取引先と言われています。

 知名度は高くありませんが、2022年末時点の総資産規模は2100億ドルを超えており、米銀16位に位置付けられる中堅銀行です。

 資金調達はほぼ銀行預金のみで、それを約730億ドルの融資と約1200億ドルの証券投資で運用するという非常にシンプルな銀行業務が行われていたことが財務諸表からは窺えます。

 バランスシートに関して特筆すべきは、2019年末時点の総資産規模は約710億ドル(融資は約320億ドル、証券投資は約290億ドル)に過ぎなかったことです。

 僅か3年の間に預金量を約3倍に拡大させ、あわせて投融資ポートフォリオも拡大させたことになります。

 米銀の預金総額は同期間で34%しか増えていないのでSVBの預金増加ペースは突出しています。

 預金量が急増した期間はコロナ対応でFRBが金利を低く抑えていた期間でもあり、SVBはこの期間中に米国債やモーゲージ債を大量に購入しますが、その後にFRBが利上げモードに転じたことで、金利上昇により含み損を抱えることになります。

 一方、コロナ期間中にSVBとの取引を拡大していたテック企業も経済環境の変化で預金を取り崩すようになります。

 預金量減少は運用資金の減少を意味するわけですが、SVBとしては保有債券を売却することで対応していました。

 含み損のある債券を売却するのですから、損失が実現することになります。

 これが8日に公表した不足資本額約23億ドルに繋がります。


 この増資計画の発表を見たベンチャーキャピタルらは何を勘違いしたのか、出資先のスタートアップ企業にSVBから預金を引き揚げるように指示します。

 同日にFTX破綻の影響で業務停止・解散を発表した銀行があったため、SVBも業務継続困難に陥っていると誤解したのかもしれません。

 あるいは資本を毀損したスタートアップ企業と同様に扱ったのかもしれません。

 理由は不明ながら、取引先が一斉に我先にと動いたことでパニック状態が生まれます。

 その結果、引き出された預金額は翌9日営業終了時点で420億ドルに達したとSVBは報告しています。

 さらに翌日10日になっても混乱は収まらず、当局が介入することとなります。

 ベンチャーキャピタルが懸念した事態を自分たちの手で実現させた恰好です。

 週末には預金全額保護の方針を当局が発表しました。

 SVBにおける混乱は収まりますが、銀行セクターに対する不安を払拭するには至っていません。


メディアや市場の見方は正しいのか

 コロナ特需が一巡したこともあってテック企業の資金調達が以前ほど容易ではなくなったことから事業縮退・レイオフといった行動に発展し、その結果支出が増加し、銀行預金を取り崩すようになります。

 銀行預金を主に米国債で運用していたSVBは、預金流出には米国債を売却することで対応していましたが、対象の米国債は金利上昇により含み損を抱えていたため、売却により損失を実現させることとなり、損失分の資金を手当てする必要が生じました。

 それを増資計画という形で公表したことが結果的に破綻のトリガーを引くこととなったわけですから、このように説明すると金利上昇が原因であるとする見方は間違っているようには見えないかもしれません。

 しかし、SVBを破綻に導いたのは、取り付け騒ぎによる大量の預金流出によってバランスシートに穴が開いたためです。

 米国債ポートフォリオが金利上昇により含み損を抱えているからといって銀行事業が傾くことはありません。

 米国債売却により損失を実現化させたことで増資が必要になったことを公表したことは、取り付け騒ぎのきっかけであって破綻の原因ではありません。

 それでも金利上昇がなければ損失が発生することもなかったと主張する人もいるかもしれません。

 しかし、金利は3月に入って急に上昇したわけではなく、FRBは日銀のような不意打ちで利上げしたわけでもありません。

 十分なアナウンスメントと段階的な利上げによりFRBは各銀行が金利上昇に備えることができるように配慮しています。

 中央銀行は金融システムの番人なのですから、自ら金融システムを不安定にするようなことを行うはずがありません。

 そもそも、新型コロナが落ち着いてくれば、FRBはいずれ金融引き締めに動くことは誰もが分かっていたことです。

 そして、引き締めとなれば、金利は4~5%水準に達する可能性は十分あることも分かっていたはずです。

 もしその程度のことも分かっておらず、金利が上昇するのを指をくわえて見ていたならば、顧客から調達した資金で債券投資を行う資格がありません。

 分かっていたものの金利上昇に対する備えを怠っていたならば、それはリスク管理の問題です。


SVBは銀行として特異な存在

 SVBはテック系のスタートアップ企業を顧客基盤としていることが特徴として挙げられる銀行です。

 裏を返せば、SVBのポートフォリオは信用リスクの分散ができていないということです。

 融資サイドは当然のことながら、預金者もテック企業やその関係者が多くを占めているとされていますから、テック業界にインパクトを与える経済事象が発生すればSVBもその影響を被りやすいことになります。

 銀行が大きくなるにつれて顧客基盤を拡大してリスク分散を図るのが合理的ですが、SVBは敢えてリスク集中の方針を維持していたわけですから、その経営姿勢には疑問を感じます。

 取引獲得のためにテック企業関係者にカネをバラまいていたという噂もあるので、もしそれが本当ならば健全な経営は行われていなかったことになります。

 この点については信憑性を確認できていないので考慮しませんが、それでもリスクテイクに関してSVBの経営には大きな欠陥があることが窺えます。


会計監査人を非難するのは筋違い

 一部メディアでは、SVBの財務は健全とした会計監査報告書を出したKPMGを非難するところもありますが、これはナンセンスです。

 不正会計を看過していたならば非難されて当然ですが、各取引が正しく会計処理され、適切に財務諸表に反映されているならば、財務に問題なしとする監査結果は当然です。

 プレスリリースを受けて預金が大幅に引き出される可能性や、その際の対応は経営リスクの問題であって、会計監査人の関知するところではありません。

 この点を追求するならば、SVBの取締役会を非難すべきでしょう。


SVB問題はFRBの金融政策に影響を与える問題ではない

 今回の当局の動きは極めて迅速であったことが印象的です。

 筆者がこれまで見てきた銀行破綻では、経営が難しくなった銀行が当局に泣きつき、当局が対応を検討のうえ介入が決定しますが、今回はSVBが助けを乞う前に当局が介入を決定しました。

 しかも、銀行と当局の折衝や当局の検討に時間を要するため介入決定は営業時間後に行われるのが普通ですが、今回は営業時間中に介入が決定しました。

 おそらくは、当局が問題含みの銀行としてマークしていたものであり、いつでも介入できる用意があったと考えられます。

 つまり、金融システムが弱っているのではなく、経営に問題のある銀行が炙り出されたというのが実態です。

 規模が大きいとはいえ個別の銀行の問題であり、業務内容も比較的単純なので、金融システムに波及するという懸念は杞憂でしょう。

 金融システムに波及しない個別事象ならばFRBとしても利上げを思い留まる理由がありません。



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