海外の投資家や資産運用会社を招いて日本への投資や新規参入をアピールするために行われた経済イベントです。
資産運用立国へ、25日からJapan Weeks 海外マネー呼ぶ
9月21日に岸田首相がニューヨーク講演で資産運用特区の設置を表明した際に、このイベントを行うこともあわせて言及していたものです。
ここ最近、岸田首相が「資産運用」に関して言及する機会が増えていますが、これは6月に公表した骨太の方針2023において「資産運用立国」を目指すことが掲げられているからです。
骨太の方針では、具体的な内容について何も言及がなかったので「資産運用立国」が何を意味するのか不明でしたが、直近数週間で検討項目が提示されるようになってきたので、政府が何を目指しているのか考察したいと思います。
資産運用立国に係る検討項目
報道によると、政府は資産運用立国分科会を立ち上げ、その検討課題は以下の通りとのことです。
② 日本独自の慣行や参入障壁の是正
③ 拠点開設サポートオフィスの拡充
④ 企業年金の運用成績の開示
⑤ 中小の企業年金の共同運用
また、並行して金融庁の金融審議会でも以下について検討課題としているとのことです。
⑦ 新興運用業者への資金拠出の促進
⑧ 投資先の企業統治改革の実効性向上
①の行政手続きを英語で完結できるということは、海外の資産運用会社が国内に拠点を設けるうえでのハードルを下げることが目的であることは明らかです。
そうなると、海外のファンドマネージャーを国内に配置し、国内資産に投資するファンドを運用することが期待されていることになります。(海外資産に投資するのであれば、そもそも日本に拠点は必要ない)
行政手続きが英語で完結するならばその準備は本国にて行うといった効率化が図れるので新規参入にあたっては有難い材料ですが、顧客向けの目論見書・運用報告書作成あるいは投資先に関する情報収集・対話といった行政とは無関係のエリアでは英語で完結しない点は解決しません。
②の日本独自の慣行や参入障壁の是正も海外の資産運用会社の新規参入を促すことが目的です。
これまでの報道内容からすると、投信の基準価額の二重計算問題の解消やバックオフィス部門の外部委託の緩和といった課題が挙がっています。
二重計算問題は業界慣習にすぎないため、国策にするような話ではなく、業界として見直しを進めればいいだけのことなのですが、長年問題視されながらも解決されていないので政府が介入するのかもしれません。
⑥にも繋がるバックオフィス部門の外部委託においては、新規参入者にとって自前でバックオフィスを用意せずとも済むのは有難いことでしょう。
③の拠点開設サポートオフィスは①とも関わるところですが、拠点開設に係る手続きをサポートしてくれるもので、これは拠点そのものだけでなく、その役職員個人に係る手続きも含むでしょうから、新規参入者の負担を減らすことになります。
⑦の新興運用業者への資金拠出の促進は、年金基金等が運用を委託する際に新規参入者に優先的に割り当てようというものです。
新規参入のインセンティブにすると同時に、既存業者への割り当てが減少することで競争を促そうとするものです。
④企業年金の運用成績の開示と⑤中小の企業年金の共同運用は、同根の問題意識からくるものと考えられます。
運用成績を向上させることにあまり関心がなかったり、向上させたくともそのためのリソースが不足している基金が少なくないため、最終アセットオーナーである年金加入者の利益が損なわれている懸念があります。
運用成績を開示させれば、少なくとも平均並みの成績が得られるように努力しなければならないというプレッシャーを責任者に与えることになります。
共同運用はリソース不足の解消となることが期待されます。
基金は運用を自前で行うか外部に委託するかの二択となりますが、前者は運用部隊を揃える必要があり、後者は外部委託先を選定したり随時モニターする部隊を揃える必要があります。
規模の小さい基金では運用部隊を揃えるのは不可能ですし、外部委託先を管理する部門も十分に機能していないのが実状です。
共同運用とすればそのためのリソースを持ち寄ることができるので、より適切な運営が可能となります。
2点とも年金運用の強化となり、さらには株価を押し上げることが期待されているものと考えられます。
⑧の投資先の企業統治改革の実効性向上は、コーポレートガバナンス向上を安倍政権が打ち出して以来、形式的にはだいぶ充実したものの、実効性が伴っていないと指摘されている問題について検討するということです。
これは資産運用立国とは関係なく議論がされてきた話ですが、コーポレートガバナンス向上は年金基金等のアセットオーナーや資産運用会社が関わってくるため、資産運用立国関連の検討項目として改めて登場してきたようです。
もともと安倍政権がコーポレートガバナンス向上を推進してきたのは、それが株価を押し上げる効果があると信じて行ってきたもので、さらに押し上げ効果を得るためには実効性向上が必要と判断されたものです。
検討項目から見える政府の狙い
検討項目を見てきましたが、まとめると海外の資産運用会社やファンドマネージャーを招致したい、株価を押し上げたいという狙いが見えてきます。
海外の資産運用会社やファンドマネージャーを招致したいというのも結局は、新たな投資マネーを呼び込みたい、高い運用力で株価を押し上げたいという狙いが背景にあると考えられます。
つまり、とにかく株価上昇が資産運用立国という方針における一貫した目的ということです。
株価を上げればデフレから脱却できるという安倍政権時代からの思想が根底にあるのでしょう。
この考え方に筆者個人として言いたいことがないわけでもないのですが、ここで疑問に思うのは政府の狙い通りに株価が上がるのかということです。
政府の目論見通りに株価は上昇するのか
海外の資産運用会社が日本株ファンドを海外投資家に販売すれば、日本株市場に新たな投資マネーを呼び込むことが出来るかもしれません。
しかし、株価上昇要因となるのはマネーが流入する一時のみにすぎません。
新規参入者が国内投資家を相手にするのであれば、運用の担い手が変わるだけで株価上昇要因にはなりません。
そもそも、海外から新規参入者が現れるのかという問題もあります。
参入のためのハードルを下げると言ってはいるものの、それがどのぐらいのインセンティブになるのか疑問が残ります。
海外投資家向けに販売するならば、運用部隊は本国にあっても取引執行可能なので国内に拠点を設ける必要がありません。
国内投資家向けに販売するならば拠点を設ける必要がありますが、国内で運用業務を展開するためのコストは大きく、採算を取れるようにするには相当な金額の資産を預かる必要があります。
とくに投信業務に係るコストは大きく、多少のインセンティブで新規参入者が現れるとは到底考えられません。
次に、海外ファンドマネージャーを招致して、高い運用力で株価を押し上げてもらおうという狙いについてです。
そもそも運用力の高さは、ファンドのパフォーマンスに現れることはあっても株価に現れることはありません。
マーケットはゼロサムゲームである以上は、パフォーマンスが平均を上回るプレーヤーの裏には同じだけ下回るプレーヤーがいます。
パフォーマンスの高いファンドが提供されることは投資家にとって好ましいことですが、株価上昇要因にはなりえません。
また、ファンドマネージャーの運用力は日本人よりも外国人のほうが高いと決めつけているように見えるのですが、果たしてそうなのでしょうか。
運用の巧拙は、投資すべき銘柄を選定する目利き力や売買すべきタイミングを見極める力などが考えられますが、それらよりも大きな要素はレバレッジです。
海外では、ロング・ポジションとショート・ポジションを組み合わせて適宜バランスを見ながら投資しています。
さらにレバレッジを拡大させることが許されている場合には資金を借り入れてロング・ショートともに膨らませます。
一方、日本では空売りやデリバティブを使うのは投資ではなく投機という考え方があるためか、ショート・ポジションにはかなり抵抗があるようでロング・オンリーという伝統的なスタイルを堅持しています。
つまり、グロスのエクスポージャーが全然違うため、パフォーマンスも大きく異なります。
もちろん、日本のファンドマネージャーはロング・オンリーしか知らない人も少なくないので、同じようにレバレッジを拡大させることが許されたとしても同じようなパフォーマンスを叩き出すだけの実力がある人は少ないかもしれないという意味では外国人のほうが優位かもしれません。
しかし、その外国人が国内でその手法を使用しようとすれば、管理システムがショート・ポジションを受け付けない、受託会社や販売会社がショート・ポジションを多用するファンドは取り扱えないといった問題に直面することが予想されます。
結論としては、これらの施策を実行できたとしても株価が上がるわけではないということです。
株価を上げたいならばその裏付けとなるビジネスを育てる以外に効果的な方法はないと思うのですが、政府は本質を見失っているように見えます。


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