トランプ氏が公約に掲げる関税が経済に与える影響

2024/04/02

中国 米国

 スーパーチューズデーを経て共和党の大統領候補がトランプ氏に早くも確定しましたので、トランプ氏が再び大統領となる可能性が一段と高くなってきました。

 トランプ氏が大統領に再び就任した場合、その政策はどうなるのでしょうか?

 前回就任時の政策運営が参考になるので想定しやすいところがありますが、2期目の政策は1期目よりも過激化する懸念があります。

 1期目でのトランプ氏は十分に過激な政策を主張していた印象がありますが、実際には良識ある側近や閣僚たちが四苦八苦しながら思い留まらせていたことが政権交代後に回顧録等を通じて明らかになっています。

 やりたいことが出来なかったという不満を残しているトランプ氏は、次期政権では自身に対する忠誠心を最優先に政権人事を行うことは自明です。

 つまり、イエスマンに囲まれた政権になるということであり、トランプ氏がどのような過激な政策遂行を主張しようとも、もはや反対する人間はいないだろうということです。

 むしろ、トランプ氏が気に入りそうな政策を率先して主張する人間ばかりとなり、政策内容が一層過激化する方向に傾く可能性すらあります。

 1期目だけでも世界秩序を十分に壊してきましたが、2期目はそれに輪をかけて破壊に邁進することになるのではないでしょうか。


トランプ関税

 ここではトランプ氏が主張する政策をうち通商政策について見ていきたいと思います。

 具体的には関税に関してです。

 1期目において中国からの輸入品に対して高関税を課していました。

 それが効果的と考えているのか、今回の選挙戦においては中国からの輸入品には60%の関税、他の国については10%の関税を課すと言明しています。

Trump suggests he would consider a tariff upward of 60% on all Chinese imports if reelected

Trump vows massive new tariffs if elected, risking global economic war

 直近では100%関税という発言も飛び出しており、どこまで本気なのか計りかねますが、高関税を課すこと自体は確実でしょう。

Trump Threatens 100% Tariffs on Chinese Cars Made in Mexico

 中国に対する貿易赤字が大きすぎる、詰まる所、中国が輸出で儲けているのが気に入らないというのがトランプ氏の主張です。


関税による影響を簡易モデルで考える

 80年代に日本に対して米国が主張していたことの繰り返しですが、経済がグローバル化している現代において貿易収支に着目して通商政策を策定することに意味がありません。

 当時は米国産品を日本に買わせるための口実でしたが、トランプ氏は貿易赤字というものは米国が損をしていることを意味していると当時も今も誤解しています。

 ここで極めて単純化した経済モデルについて考えてみます。

 A国は自国内で経済が完結していて他国との貿易が一切ない状態の場合、貿易収支は言うまでもなくゼロとなります。

 コスト削減のためA国のB社が製造工場をC国に移して、原材料等はすべて現地調達し、完成品はすべてA国に輸出するようになった場合、C国からの輸出分がA国の貿易赤字になります。しかし、実際にはA国のB社が製造場所を変更しただけのことです。

 また、C国が輸出で得た外貨をA国に投資すればカネが還流するので貿易収支は赤字であっても国際収支は赤字とはなりません。

 つまり、貿易赤字が大きかったとしてもA国は何も損をしていません。(B社が支払う原材料費や人件費はA国内からC国内での支払いに変わるのでその分A国は損しているという議論もあるかもしれませんが、それらのリソースは他の事業に充てる機会が生じるので損失と考える必要はありません。)

 ここでA国政府がC国の輸出品に60%の関税を課したとします。

 従前通りに輸出を続けた場合、関税分を損失として受け入れるのでない限り、販売価格に転嫁することになりますから、A国内では1.6倍の価格で販売されることになり、ユーザーであるA国民が負担するということになります。

 A国民としては、割高となった①A国内に代替品がないのでC国産品を購入し続ける・②A国産の代替品を購入する・③購入を諦めるという選択を迫られることになります。

 ①の場合、6割高となった製品を購入するのですから、その分可処分所得が減少します。また、購買行動が変わらないので、貿易ギャップにも変化が生じません。貿易ギャップを縮小させたいという本来の政策目的が果たせないまま、A国民の購買力を低下させるだけに終わります。経済効果だけを考えれば、A国が自国民に対して増税したのと同じことです。

 ②の場合、①のケースほどではないかもしれませんが関税前よりは割高な価格を甘受することになります。①と違ってA国産品が購入されるので貿易ギャップは縮小します。B社が製造拠点をA国内に戻した場合と同等です。

 ③の場合、販売に応じて輸入量が減少するので貿易ギャップは縮小することになります。しかし、A国民は買いたかったものを諦めており、A国のB社も売り上げ減少に直面します。

 このように、いずれの選択肢もA国民が安価に購入できる機会を奪われるだけでメリットのあるものではありません。

 しかし、トランプ氏は米国民のために高関税を課すと言っているわけです。


関税による米国民が強いられる負担は大きい

 これまでのトランプ氏の発言からすると、関税は輸出国が負担するものと誤解しているフシがあります。

 貿易赤字で米国が損した分を関税によって取り返そうという魂胆から出てきた政策なのですが、直接負担するのは輸入者であり、実質的に負担するのは米国民です。

 1期目の対中関税では、米国民は2300億ドルの負担増を課せられたという試算も出ています。

Trump wants more tariffs. His earlier trade wars cost Americans $230 billion to date

 高関税が実施されればインフレの影響に辟易している自国民や企業をさらに追い込むだけです。


理不尽な関税に対して相手国による報復措置は不可避

 トランプ氏は米国が世界において圧倒的に強いと信じているだけに関税の対象となった諸外国による報復措置がありうることも一顧だにしていません。

 1期目において中国に対して関税を課した際には、中国も報復的に関税を課していますが、どちらかというと政治的メッセージとしての報復措置であり、貿易収支に立脚した議論に付き合うつもりはなかったように思われます。

 貿易赤字が縮小すれば満足するのだろうということを見透かした中国は、輸出品を第3国を経由させることで関税逃れを果たすと同時に、貿易赤字を他国に移し替えています。

 報復措置に対する懸念について記者から質問されたトランプ氏は、まるっきり懸念していないだけでなく、1期目の時に中国は報復措置を実施していたことをあまり認識していなかったようです。

Trump Defends Tariffs, Dismisses Threat of China Retaliation

 都合の悪い情報は記憶に残らないのか、周囲が情報統制していたかのどちらかですが、関税逃れの方法があるということもおそらくは認識していないのでしょう。

 米国に報復できるだけの度胸がある国はないと高を括っているのでしょうが、実際には諸外国から何らかの報復があるものと考えざるを得ません。

 とくに問題となるのはFTAを締結している国々です。

 FTAにより関税を撤廃しているはずのところ、トランプ氏の意向で一方的に破棄されるリスクがあります。

 実際、1期目にはカナダ・メキシコと締結していたNAFTAを一方的に破棄し、米国にとってより有利な内容のUSMCAを押し付けています。


経済への影響

 中国に対する60%の関税は前回同様に第3国を迂回することで大きな影響は回避できるかもしれませんが、諸外国に課す10%の関税から逃れることはできません。

 米国の輸入物価が実質的に10%増となり、輸入量も減少する一方、同様の報復関税があれば輸出量も減少することとなり、諸外国でも同様の事態となる可能性があります。

 貿易戦争に発展して関税率の引き上げがエスカレートする可能性も否定できません。

 その行く着く先は、世界の貿易量は減少し、インフレが世界レベルで再加速するシナリオか、グローバル貿易は米国を基本的に排除する形に組み直されるシナリオのどちらかに進むと考えられます。

 どちらのシナリオであっても貿易赤字は縮小するのでトランプ氏はきっと満足することでしょう。しかし、その代償を払う米国民はどう考えるのでしょうか?

 2期目の政権ではトランプ氏は米国経済だけでなく世界経済を壊した男として歴史に名を残すことになるかもしれません。


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