Biden sharply hikes US tariffs on an array of Chinese imports
もっとも注目されているのはEV自動車(関税率25%⇒100%)ですが、これ以外にも半導体製品、リチウムイオン電池、ソーラーパネル部品、医療関連製品等が対象となっています。
中国においてEV車の生産設備が過剰となっており、米国においてダンピング販売が起きることが懸念されています。
中国はもはや世界最大のEV生産国となっており、生産設備を維持するために安価な製品を世界中に押し付けようとすることはある意味当然とも言えるシナリオです。
また、米国ではEV人気が陰っており、以前ほど需要が見込まれないという事情もあります。
ガソリン車と違って、EV車の主要部品であるバッテリーが走行距離に応じて消耗するため中古車としての再販価格が大きく毀損することが要因の一つと考えられます。
実際、レンタカー大手のハーツは所有するEV車の多くをガソリン車に入れ替えました。
定期的に所有自動車の入れ替えが発生する事業としては、収支が悪化するEV車は合理的な選択ではないということです。
Hertz is selling 20,000 electric vehicles to buy gasoline cars instead
関税引き上げは政治パフォーマンス
このような国内事情を鑑みれば、関税を引き上げることは、保護主義的な政策の是非は別として、理不尽な政策とは言い切れません。
しかし、今年は米大統領選が予定されており、名目が何であれ関税引き上げは関係業界の票を取り込みたいバイデン大統領の政治パフォーマンスであることは一目瞭然です。
EV車の例でいけば、バイデン大統領は民主党の大統領候補ですから、自動車企業そのものよりも自動車業界の組合に対する働き掛けの意味合いが強いでしょう。
ただでさえ自動車が機械から電気製品へと変貌していくことに現場は困惑していることに加え、海外の競合企業によるプレッシャーが大きく、先行きについて不安が増大していることは想像に難くありません。
例えば、EV車の雄であるテスラ社はすでに車体価格引き下げや大規模レイオフに踏み切っています。
Tesla laying off more than 10% of staff globally as sales fall
バイデン大統領としては業界の抱える問題を理解しており、対策していると訴えるべく打ち出したのが関税引き上げです。
関税引き上げによるパフォーマンスは珍しいものではなく、トランプ前大統領が任期中に行った関税引き上げ(以下、トランプ関税)も同様です。
関税引き上げ検証レポートの内容は何を意味するのか
ここで注目すべきは、バイデン関税は、トランプ関税の効果を検証するUSTRのレポートを踏まえて決定されたことです。
FOUR-YEAR REVIEW OF ACTIONS TAKEN IN THE SECTION 301 INVESTIGATION
レポートを要約すると、この政策は名目上は経済安全保障面が主眼となっているため、そちらでは一定の効果があったと結論付けています。
しかし、経済面に目を向けると、米国内企業のビジネス拡大には多少寄与したものの、米国内の雇用創出には至っていないということです。
これは読む人の立場によって受け止め方が変わってくるでしょう。
関税に強い懸念を示していた向きからすると、米国経済に悪影響が見られなかったことで肩透かしを受けた気分でしょう。
関税を支持していた向きは、中国離れから米国企業が恩恵を受けて、雇用が創出されると考えていたわけですから、雇用市場に変化がなかったという結論は期待外れということになります。
このタイミングでレポートが公表されたことは何を意味するのでしょうか。
このレポートは2022年に行った検証レビューに対するアンケート結果を踏まえて作成されたものですが、アンケート実施から1年以上経過しているので、もっと早く公表して関税引き上げに踏み切ることもできたはずです。
このタイミングで公表されたのは何らかの意図があると考えるのが自然です。
レポートの中では、中国からの貿易の一部がメキシコ等に振り替わっており、経済安全保障の観点からリスク分散が進んだと分析されています。
しかし、この分析で本当に正しいのでしょうか?
トランプ関税は、一つの国をターゲットとしたものであったため、第三国経由で輸出すれば関税対象とはならないという抜け道があります。
つまり、米国向け輸出が中国以外の国に振り替わったのは、中国が第三国経由としたため、統計上は第三国が輸入元として挙がっているのではないかということです。
筆者の見落としかもしれませんが、このレポートでは第三国経由の観点にあえて触れないようにしているのではないかと思われます。
今回のバイデン関税はトランプ関税に上乗せする形で行われるため、引き続き中国のみをターゲットにするものであり、したがって同様に第三国経由で高関税を迂回することが可能です。
このタイミングでレポート公表・関税引き上げに踏み切ったのは、大統領選に向けた政治的なポーズに過ぎず、第三国経由の抜け道を使っても黙認するというメッセージを中国に対して送っているのではないでしょうか。
関税引き上げによる米国経済への影響
今回もバイデン関税を受けて中国は政治的に反発するでしょうが、実務的にはトランプ関税と同様に第三国経由の輸出で対応するでしょうから、米国経済への影響はほとんどないと考えて差支えないでしょう。
関税が米国経済にとって問題となりうるのは、むしろトランプ氏が選挙戦に向けて掲げている政策でしょう。
以前の記事でも書いた通り、トランプ氏は中国に更なる高関税を課すと同時に全世界に対しても関税を課すとしています。
もともと今回のバイデン関税はトランプ氏に対抗して実行された面がありますが、これを受けてトランプ氏は更なる関税引き上げの姿勢を示しています。
Trump and Biden’s appeal to Rust Belt turns on tariffs
バイデン大統領は中国が抜け道を利用することを実質容認しているように見えるのに対し、トランプ氏はメキシコで生産される中国企業の製品に対しても高関税を課すとしているため抜け道の利用を許すつもりはなさそうです。
中国としては生産拠点をほかに移せば回避することが可能なわけですから、この点に関しては最終的に生産国に関係なく中国企業の製品が高関税の対象になるのかもしれません。
今のところ関税の話とは結びついていませんが、日本の円安や企業買収についても最近トランプ氏は批判しているので、日本製品についても高関税を課してくる可能性も否めません。
この不毛な関税政策においてトランプ氏が恐らく見落としているであろうことは、米国の国力は以前ほど強くないということです。
日米貿易摩擦の頃であれば世界経済に占める米国の割合は圧倒的であったため、米国市場から締め出されるということは非常に小さなパイの中でしかビジネスができないことを意味していました。
しかし、現代では米国が世界経済に占める割合はかなり低下しているので、仮に中国が米国市場から締め出されたとしても残ったパイは十分に大きく、中国企業は何が何でも米国にしがみつく必要はありません。
中国が米国との貿易から撤退するという極端な結論に直ちに到達することはないでしょうが、トランプ関税第2弾が実行されれば中国をはじめとする非米勢力の結束を強めることになりそうです。


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